地域の救急医療を支えるしくみ

救急医療を支える様々な搬送手段

救急医療の資源を集約化し、地域の救急医療体制を維持するためには、患者・医療スタッフを搬送するための様々な手段が必要です。ここでは、現在日本で利用されている搬送手段の役割やメリット・デメリットを紹介します。

ドクターヘリ

航空救急の主役であるドクターヘリは、阪神・淡路大震災の救助活動をきっかけとして導入が始まりました。ヘリの一番のメリットは、地上の地形や交通事情にかかわらず、飛行することができる点です。その時速は最大で約250kmにも達します。救急専門医と看護師がヘリに乗って現場に向かうことで、その場で素早く初期治療を施すことができ、患者を救急医療機関まで高速で搬送することができるのです。

けれど、ヘリにも様々な制約があります。例えば現在のところ、ドクターヘリは日中しか活動することができません。ヘリコプターが、万が一でも送電線や高いビルと衝突事故を起こすことがあってはならないからです。しかしそれが故に、医療体制が手薄になり救急医療の重要性が高まる夜間に活動できないという弱点があるのです。

Merit: 着陸可能な地点が多い
Demerit: 夜間飛行不可*、天候の影響を受けやすい
(*現在、特例の実証実験が行われています)
(写真左)ドクターヘリは比較的小型のヘリで、患者を乗せるストレッチャーをヘリのお尻の部分から出し入れする構造になっています。
(写真中)乗員の出入り口付近から見たストレッチャー格納部。機内には心電図モニター・人工呼吸器・除細動器などの機器が効率良く格納されています。
(写真右)ストレッチャーの横に若手医師が、頭の前に指導医が座り、その隣に看護師が座ります。機内は狭いですが、慣れれば必要な医療行為はなんでもできるとのこと。

ドクタージェット(固定翼機)

固定翼機(飛行機)はヘリコプターに比べて非常に高速であり、航続距離も長いという長所があります。反面、空港にしか離着陸できないので、一刻を争う救急搬送では効率が良いとは言えない部分もあります。北海道が取り組んでいる試験運航では、救急搬送よりも施設間での重症患者の搬送のニーズが高かったとのことでした。例えば、新生児や重症の妊婦など、長距離をヘリコプターや救急車で運ぶのが難しい患者を専門病院に搬送する場合、重度の熱傷の患者を高度熱傷治療の専門機関に搬送する場合などに、真価を発揮していくのではないでしょうか。

Merit: 高速で飛行時の安定性が高く、機内が広い
Demerit: 空港にしか離着陸できない

(写真左)フライトドクターと運航スタッフ。整備士も同乗します。
(写真右)機内はヘリに比べて広く、長時間の搬送にも耐えられそうです。

地域の救急医療を支えるしくみ

救急医療を支える様々な搬送手段

救急車

言わずと知れた、救急搬送の主役です。全国各地の消防署・病院などに配置されているためいつでも出動でき、地域の救急医療をきめ細やかにカバーする役割を担っています。

救急車には救急隊員(救急救命士)が乗っており、重症の場合には医師と連絡を取り合って除細動などの処置を行います。迅速な治療が必要な時には、ドクターカーやドクターヘリで現場に駆けつけた医師が同乗して、搬送途中に初期治療を行うこともあります。

Merit: 全国にくまなく配置されている
Demerit: 通常は医師・看護師が同乗していない、ヘリよりも速度が遅い

ドクターカー

ドクターカーは、ヘリと同様に、医師や看護師を運ぶ手段のひとつとして活用されています。ヘリよりも速度は遅いですし、また基本的には患者を搬送することはできませんが(医師が同乗し、患者を運ぶものもあります)、時間や天候によらず出動できるため、場合によっては最も早く現場に医師を送ることができる手段となり得ます。

例えば、ヘリが飛ぶことができない夜間や悪天候の時は、ドクターカーがその力を発揮します。救急医療においては、その時々に応じて最も早く医師が現場に行ける手段を使うことが重要なのです。

Merit: 時間・天候によらず出動が可能
Demerit: ヘリよりも速度が遅く、患者を搬送できない
ドクターカー・ヘリに積まれている「トーマスバッグ」と呼ばれる道具箱。現場処置に必要な物品・薬品が効率良く格納されています。但馬救命救急センターでは、麻酔代わりに現場処置で役立つ薬品として、厳重な管理の下に麻薬を携行しているそうです。

今回お話を伺った先生

ドクターヘリ・ドクターカー
小林 誠人先生(フライトドクター)

公立豊岡病院
但馬救命救急センター 
センター長


ドクタージェット
(メディカルウィング)
森 和久先生(フライトドクター)

札幌医科大学救急医学講座 講師



No.4