医学生×社会人 同世代のリアリティー

職場の人間関係編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。
今回は「職場の人間関係」をテーマに、今年度新入社員として入社した3名(社会人A・B・C)と、医学生3名(医学生D・E・F)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは『職場の人間関係』

医学生は卒業後、指導医の下で様々な経験を積んで一人前の医師になっていきますが、同様に一般の社会人も、先輩や上司に揉まれながら成長していきます。職場の人間関係が大事なのは、医師も一般の社会人も同じなのです。

先輩の背中を見て仕事を覚える

医D:社会人になると、まずは直属の先輩の仕事を見て仕事を覚えていくものなんですか?

社A:僕は保険会社の営業で基本的には一人で回ってますけど、仕事のやり方は先輩にアドバイスしてもらいますし、大事な案件ではお願いして一緒に回ってもらいます。先輩も、20年上の上司も、入社した時にはみんな今の僕と同じ立場だった訳なので、困った時には頼りになります。

社B:僕は商社で働いています。僕の教育係の先輩は課のエースで、本当に何でもできちゃう人なんですよ。だから、後輩としてはプレッシャーですよね…。

社C:僕は電機メーカーです。うちの会社は研修が長くて、今週やっと配属なんで、直属の先輩というのはまだいないですね。

研修中に謝り方も教わる!?

医E:仕事をしていくなかで、叱られる場面もありますよね?その時はどうするんですか?

社B:僕は研修中に、どういう風に謝ればお客さんが引き下がってくれるのかを習いました。

医F:えっ、どうやるんですか?

社B:声のトーンを落とし気味に「申し訳ありませんでした」って言いながら頭を下げて、相手が「もういいよ」って言うまで頭を上げない。上司には「君には理由を説明せずに謝って、客を引き下がらせる才能がある。ただ、理由を説明できる語彙力も身に付けなさい」と言われてます(笑)。

医D:上司に謝る時にもそのスキルを使うんですか?

社B:上司には口答えせずに、向こうが言いたいことを全部言わせて、その後で「以後気を付けます」で終わらせます。彼らは指摘したくて仕方がないので、そういう時には「言わせた者勝ち」なんですよ。全部言っちゃえば、向こうは満足するので。

仕事上がりの飲みは断れない?

医F:社会人になると仕事上がりに付き合いで飲みに行くっていうイメージがありますけど、みなさんはどうですか?

社A:出張に行った時には支店の一番偉い人が食事に誘ってくれるんですが、誘われたら絶対に断るなと研修中にも言われました。飲みに行った先では、上司のコップが空いたらすぐにお酒を注ぐ。上司が話してる時はずっと目を見ながら話を聞く。うちはかなり体育会系ですよ。

社B:付き合いはなくはないですけど、うちの部署に限って言うとあまりないですね。でも先輩が飲みに行きたいオーラを出してたら、「行きますか、今日?」みたいな感じでこちらから察して誘うようにしてます。部署によるんですけど、多いところは本当に飲み会が多いですね。それを見て、飲みの少ない部署でよかったなあって思います。直接お客さんに関わる部署はやっぱり、「飲むぞ!」っていう雰囲気の社員が多いですね。

医E:飲み会でつぶれちゃうようなことはないんですか?

社A:それはないですね。飲むことを強要されることはないです。仕事柄個人情報を多く扱っているので、酔っ払って鞄をなくすと問題になりますしね。それは上司もよく分かっているので飲ませ過ぎることはありません。

社C:医師の飲み会の雰囲気は、科によって違うんですか?医療系の漫画を読んでると外科の飲み会は激しいって描いてあったので。あと、脱いでましたよ(笑)。

医D:やっぱり科によって雰囲気の違いはあると思います。たしかに外科の先生は、お酒の席で盛り上がるのが好きな人が多いイメージはありますね。

社B:うちの会社の飲み会でも脱ぐ人はいますよ。でも本当は脱いだら負けなんです。脱がずに場を盛り上げられる人が「本物」なんですよ。

同世代のリアルティ

医学生×一般学生 同世代のリアリティー

職場の人間関係編-(後編)

休日に呼び出されて遊んだりする?

医D:休日は会社の上司や先輩と出かけたり遊んだりするんですか?

社B:年に数回ゴルフコンペがあるくらいですね。参加は任意ということになってはいますけど、若手は任意という名の必須ですね。若手の仕事が多いんで、休んじゃうと回らなくなっちゃうんです。そこで変に断って後々言われるのも嫌ですしね。敵を作らないようにするイメージですよね。自分の居場所がなくなるのが一番辛いんで、その辺はしょうがないですね。

医E:仲良くもない上司から遊びや飲みに誘われて、何が楽しいんですか?

社B:別に楽しくはないんですけどね(苦笑)。仕方がないというか…。だからある程度割り切って仕事の延長の話とか、あとはサッカーや野球などスポーツの話をするようにしています。

社C:うちの会社はかなり自由な社風だから、会社は会社、プライベートはプライベートっていう感じで、忘年会以外はほとんど飲み会がないんです。ただ他の会社から出向してきた人は雰囲気が違うなと感じます。全体的にふわふわした職場のなかで、一か所だけぴりぴりしたオーラが出てたりするので、そういう人には気を遣いますね。

社A:大きい会社ほど上に刃向かうことが難しいものなんです。中小企業やベンチャー企業ならはっきり言えるんだけど、大きい企業だと既存の仕事をこなすことが仕事の大部分を占めるので、上からその仕事が下りてこなくなると困るんです。

「お局さん」との上手い付き合い方

医F:「お局さん」みたいな人って、実際にいるんですか?

社B:いますねえ(苦笑)。なんて言うんですかね、この人に逆らったら生きていけないなっていう雰囲気があって、そういう人には常に気を遣い続けなきゃいけない。それを失敗すると、たぶん居場所がなくなるだろうなっていうオーラがあるんです。

医D:そういう人と上手く付き合うためのコツは?

社B:やっぱり、それを受け入れるしかないですよね。今の辛い状況も、次の標的が入ってくるまでの勝負だったりするんで(笑)。自分より下の年次があと2人くらい増えれば目をつけられたりもしないだろうと。それを励みに、日々耐えてます。

社A:営業の仕事だと、契約を取ってきても申込の手続きをするのは一般職の方なんですよ。だから社内営業も大事なんです。

医E:社内営業ですか(笑)。

社A:例えばその人のパソコンが新しくなったら、「パソコン新しくなったんですか?」って話しかけます。そうすると「あ、分かるの?」みたいな会話が生まれるんで、そういう積み重ねで仲良くなって、いろいろ話すようになるんです。

社C:僕は研修で苦手な人との付き合い方を習いました。苦手な人と付き合うためには、どんなに嫌でもまず相手を好きになること。相手のことを嫌いになると、その感情は伝わっちゃうんですよ。だから嫌だと思ってもまずは自分が相手のことを認める。そうすると自然と相手が歩み寄ってくれる、らしいです。

社A:若手の医師は看護師との関係が大変って聞きますけど?

医E:医学生って大学時代に看護学生との関わりがほとんどないんですよ。同年代でも現場に出るのは看護師の方が早いんで、研修医として病院に入った時は看護師との関係には気を遣うと聞いてます。特に女性医師は、看護師に嫌われたら仕事終わるから気を付けろって。

社B:どろどろした、昼ドラのような世界ですね。ちなみに僕の妹は看護師です。

社C:うちの妹も看護師です。

社A:僕は母も妹も看護師です。

医E:みなさんご家族が看護師なんですか(笑)。

社B:うちの妹はお局ナースにならないといいなあ(笑)。

理不尽なことを言われた時には

社A:お局さんからだけじゃなく、社会に出ると色んな人から理不尽なことを言われますよ。

医F:この前社会人の方とお話をする機会があったんですけど、その時になぜかすごく怒られて、「あなたみたいな人間は最悪な医者になるから、いますぐ医学部なんてやめてしまいなさい」なんて言われちゃいました。理不尽だなあって思いました。

社B:そういう人もいるよね。

社A:まあ、そういうことは言われてるうちが華だから。言ってくれるってことは自分のことを見てくれてるってことだしね。

社C:まあ、僕らが子供の頃にも親から結構厳しいことを言われて理不尽だと感じたりもしたけど、ある程度大きくなってみるとこういうことだったんだって納得する場面もありますよね? 厳しくされたからこそ今の自分があるんだなって、感謝の気持ちが芽生えてくる。それと同じで、今は多少理不尽に感じられても、いつか成長した時に振り返ると「あの時に言われたことってこういうことだったんだな」って思える日が来るんじゃないかな。

社B:いい話だな(笑)。その繰り返しで成長するってことだね。

社A:あとは上に言われたことのなかで、自分のなかに取り込むべき部分とそうでない部分をいかに見分けるかが大事かな。納得のいく指摘は糧にすることでしっかりと成長していって、次は自分が先輩の立場になっていくんじゃないでしょうか。

医E:職場の人間関係をどうやって上手く築くかというのも、仕事の一部ですよね。私たちも医師になったら、チームのなかの様々な職種の人たちと一緒に医療を行わなければならないんですから。今日はありがとうございました。

※この記事は、今回お話を聞いた社会人の職場環境に即した一例です。


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