これから、医学生に何ができるか?(1)

医学生イベント「医師のWork Life Balanceについて考えよう」を振り返る

2013年2月16日、医学生が主催し、自分たちの将来について考えるイベント「医師のWork Life Balanceについて考えよう」(日本医師会共催)が開催されました。都内で行われたこのイベントには100名を超える男女の医学生が参加し、Ustreamでもその様子が中継されました。イベントでは、医師の労働環境やワークライフバランスについての現状把握・先輩医師たちの経験談の講演・グループワークが行われ、参加した学生たちにとって将来を真剣に考える良い機会となったようです。最後に特集のまとめとして、イベントを主催した5名の学生に、企画を通じて学んだこと・感じたことを自由に語ってもらいました。

 

これから、医学生に何ができるか?(2)

企画する中で私たちが学んでいった

――今回のイベントの企画はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

西村:私が言い出しっぺです。もともと将来に漠然とした不安があって…。女子医学生どうしで「いつ結婚しよう?」「将来不安だよね」なんて話しながら、「ここで話していても進歩がないな」と感じていました。もうちょっと社会全体をプラスに変えていけることをしたいと思って、今回のイベントを企画することにしました。

梅本:私も問題意識を感じていたので、声をかけてもらって一緒にやることにしました。当初は女性医師のワークライフバランスをテーマに考えていたのですが、いろいろ準備をしていくと、「男性も意外と大変なんだよ」「女性だけで活動すると、女性の権利主張になってしまうよ」という意見をいただくようになりました。そこで、イベントの趣旨を「男性と一緒に考えて、医療界全体を良くしていく」という風に変えることにしたんです。

河合:僕はそれまでも様々な講演会や勉強会によく参加していたのですが、このイベントの企画メンバーに男子もいたほうがいいということで声をかけられました。ワークライフバランスに興味があったわけではないのですが、何か社会にマクロな影響を与えるような活動をしてみたいと思っていたので、二つ返事で「いいよ、やろう」と言いました。

――実際に企画する中で、問題意識は変化しましたか?

宮崎:私はもともとこういう問題に対して何も考えていなくて呑気だったんですが、企画する中で「あなた自身は医師になった後どうするの?」などと聞かれたときに、全然答えられない自分がいて。それで、ようやく自分の将来について真剣に考え始めました。漠然と「結婚して子どもを産んで、ちょっと子育てのために仕事を休んで、その後はまあぼちぼち…」なんて思っていたけど、実際「じゃあ誰が子育てするの?」って考えたら、すごく難しい問題だなって。でも、医学生って全然考えてない方が普通なんですよね。

松永:私の周りの医学生も、部活動には一生懸命でも、学外活動や医師としての長期的なキャリアについての意識は低いと思います。私自身も「結婚したいし子どももほしいけど、医者は忙しいって言われるし、先輩に聞いてもみんな難しいって言うし…」と、どうしたらいいのかわからなかった。けれど、企画をする中でいろいろな先生の話を聞き、多様なあり方を知ることができました。子どもを4人も産んで留学もしたという産婦人科の先生、子育てをしながら外科で働き続けている先生、子育てに時間を割けないことを悔やんでいる男性の先生…と、思いもそれぞれに多種多様で、答えは一つではないということがわかり、とても参考になりました。

梅本:女性医師支援の現状について調べたことも勉強になりましたね。それまでは自分のキャリアや仕事と家庭の両立について不安ばかりでしたが、先生方の話を聞いたりDVDを観たりするうちに、いろんな解決策があるということがわかってきました。育児休暇や短時間勤務制度は病院によっても違うけれど、最低限の期間は取ることができるという法律があることを知って、「意外と制度はあるんだね」とメンバーの中でも話題になりました。

西村:企画メンバーも初心者ばかりだったので、まず自分たちがいろいろなことを学んで変わっていって、イベントの参加者にもその発見を伝えていくという、結果的にいいプロセスになりました。

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グループワークで見えた学生の意識

――「男子学生にも興味を持ってもらえるイベントにしたい」という目標は、達成できたという実感がありますか?

河合:男子学生の参加者もそれなりに多かったので、成功したんじゃないかなと思っています。企画中に、「留学など男子学生も興味を持ちそうなテーマと、女性医師に関するテーマの二本立てにしようか」という話も出て、一度は軸がブレそうになりましたが、あえて「男女の意識差自体に注目する」というテーマに絞ったことが結果的には良かったと思います。

梅本:実際にイベントをやってみると、意外と男子学生のほうが「家庭のことは男もやるものだ」と思っているように見受けられました。実は女子学生のほうが「女がやらなきゃ」と思いこんでいるんです。

宮崎:グループワークでも、女の子が「旦那さんが仕事にやりがいを感じているなら家事や育児をやってもらわなくていい。その分私ががんばる」と言っていて、男の子が「分担しようよ」と言っても「夢を諦めてほしくないから、やってもらわなくていい」と突っぱねてしまう…というようなやりとりがありました。「働くことが男の幸せ」って決めつけるのも、偏見なのかもしれないなと感じています。

――ただ、男子学生の方が、キャリアについての具体的なイメージがないまま語っている可能性は否めないように感じます。

河合:確かに、男子学生はあまりリアリティーがないまま「手伝うよ」と言っている側面もあると思います。実際には職場で子育て中の女性医師をカバーしなくてはならないときもあるし、現実的に負担が増えたり、自分のキャリアと引き換えになったり…ということまで考えたら、「うーん」と唸ってしまうかも。

松永:女子医学生は「大変そう、できないんじゃないか…」と、男子医学生は「いや、きっとできる」と言っている印象を受けました。ワークライフバランス自体への関心は、男子が全く持っていないわけでも、女子がしっかり持ってるわけでもなくて、両方とも何となくフワっとしてる。けれど、どちらかというと女子はネガティブ、男子はポジティブに考えている感じですね。

西村:このイベントを機に、学校の休み時間や実習中など、日常的にこういうことを考えたり話したりするようになって、少しずつ男女が一緒に考える風潮ができたら嬉しいですね。

結婚への焦り、親の影響

――イベント当日は、6人の先生方に経験談をお話しいただいていますね。

梅本:私は吉田先生のお話が特に印象に残りました。女子医学生は特に結婚に不安がある人が多いのではないかと思いますが、吉田先生は「完璧な人と結婚しなくていいんです、人は変わるから」とおっしゃっていて。なるほどそういう考え方もあるのかと思ったら、ちょっと楽になりました。

西村:結婚への焦りから、「家事も育児も自分がやるから大丈夫」って言ってしまう女子も少なくないのかもしれないですね。私はいずれ結婚したら、相手を「育児に協力的な夫」に変えていきたいです。

河合:今回お話しいただいた男性の先生方は、みなさん奥さんが専業主婦だったので、次は共働き家庭の男性医師の話も聞いてみたいですね。

松永:話を聞いて思ったのは、先生方は「続けるのは当たり前」と思ってらっしゃるということ。けれど、女子医学生の中には「そんなに働かなくてもいいや」と思っている人も少なくない気がします。私も、「医師になるからにはしっかり働きたいけど、なってみないと分からないな」って感じているところはあります。

西村:私たちの世代の医学生は、お母さんが専業主婦という子が多いので、「家庭に入ることが普通」という感覚がまだあって、仕事を辞めることへの罪悪感をあまり持っていないのかもしれません。逆に親が共働きの子は、働くのが当然だと思っているように感じますね。

宮崎:「お母さんが専業主婦で視野が狭いから、私はもっと社会を見たい」と言っている子もいれば、「お母さんが仕事ばかりで結局離婚したから、離婚するぐらいなら私は働きたくない」と言っている子もいて…。親の姿は、どちらの方向にも影響するんだなと感じます。

松永:「家のことは完璧にやらなきゃ」という考え方も幼いころに刷り込まれたものだと思うし、それが足かせになってうまくいかない人もいる気がします。自分の家庭を客観的に見ることができたら、考え方も柔軟になっていくかもしれません。

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学生の意識を変えていきたい

――もっとこんな話が聞きたい、今後こういうイベントにしていきたいという思いはありますか?

宮崎:先日参加した勉強会で、研修医のあいだに妊娠・出産した先生のお話を聞く機会がありました。すごく大変で周りにも迷惑をかけたけど、3ヶ月しか休まなかったから研修を2年間で終えることができ、その後も週1日・短時間勤務で働ける場所を見つけて、臨床で働いているというお話でした。本当にリアルな話だったので、「研修医でも子どもを産めるんだ」って思えて、勇気づけられました。

梅本:そういう話は私もすごく聞きたいです。「悩んでいる姿」ってリアリティーがあるので、自分も考えてみるきっかけになると思います。

西村:次にイベントをやるときには、身近な世代の先生方もお呼びしたいですね。現実をイメージしてもらうために、育児している姿をVTRで流すのもいいかもしれない。今回は参加者を幅広く集めたかったので大きなテーマを設定したけれど、次回はもう少しテーマを絞ってもいいかもしれないなと思います。

――今回のイベントの影響が、長期的にどのように広がることを期待しますか?

河合:僕は首都圏のイベントには結構参加していますが、参加しているメンバーがいつも同じだなと感じます。もっと新しいメンバーにも、今回僕らが得たような学びをしてもらいたい。今回の反省も生かして、引き続きイベントを継続することで、他の地域にもこういうイベントが広がっていけばいいなと思います。

松永:私はこれまで、研修病院を選ぶ基準としてワークライフバランスを考えたことがなかったけれど、今回のイベントで「そういう部分ってすごく大事なんだな」と思うようになりました。同じように感じた人が結構いると思うので、そういった流れから、病院側も少しずつ変わっていったらいいなと思いますね。

西村:私はこのイベントを契機に、医師になってからも働きやすい勤務環境づくりに携わっていきたいと思うようになりました。これまで出世にはあまり興味がなかったのですが、環境を変えていくためにはトップの立場を目指していかなきゃいけないですよね。

今できることは、学生の意識を少しずつでも変えていくこと。それが、未来の勤務環境の改善につながったら素敵だなと思っています。

「医師のWork Life Balanceについて考えよう」イベント
6月23日(日)第二回開催予定!

前回、大好評を得ました「医師のWork Life Balanceについて考えよう」の第二弾がやってきました!!第二回のテーマは「育児と仕事の両立-そのために今できることは何だろう?-」です。

仕事と育児の両立の難しさに直面している先輩から実状を学び、自分たちが何をすべきかについて少数精鋭で熱い舌戦を交わし合います!!6月23日(日)午後2時から開催予定です。

漠然とした未来に不安を感じる方!子どもを抱く喜びを感じたい方!

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