医学生×社会人 同世代のリアリティー

キャリア・出世 編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。
今回は「キャリア・出世」をテーマに、大卒4~5年目の社会人3名(社会人A・B・C)と、医学生3名(医学生D・E・F)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは『キャリア・出世』

医師が大学院進学や開業などで自分のキャリアを築いていくのに対して、一般の社会人は社内で出世するだけでなく、転職や起業などの転機で仕事そのものを変えることもあります。医師と社会人のキャリア観はかなり異なっているようです。

4~5年目はキャリアの転機!?

医D:皆さん社会人4~5年目の方々ですが、どういう仕事をしてらっしゃいますか?

社A:私は銀行員で4年目です。仕事は法人営業で、中小企業60社くらいを相手に、外回りに明け暮れています。お金を貸して、金融商品を売って、社長の資産運用の相談に乗って。まあ、典型的な体育会系の会社です。女性の同期は今ちょうど、バタバタと結婚してるところです。うちの会社はまだまだ男性社会なので、家庭と仕事の両立に苦労している子も多いみたいですね。

社B:僕は大学を卒業して3年間は百貨店に勤めてました。最初は「お客様の役に立てるような仕事がしたい」と思って働いたんだけど、お役所的な仕組みのせいでやりたい仕事をできない場面が多くなったので、思い切って転職しました。今は生鮮食品のコンサルタント会社で鮮魚を担当しています。

社C:広告代理店に勤めて今年で5年目です。僕自身は企業のPR活動を手伝うのがメインの仕事です。後輩も入ってきたので、彼らを使える人材に教育するのも大事な仕事になりました。

医E:銀行って転勤が多いイメージがありますけど、実際どうなんですか?

社A:私はまだ異動してないんですけど、銀行はだいたい3年周期で異動するものなので、同期は8割くらいが2つ目の支店に行きました。最初の支店で仕事のイロハを叩きこまれ、一人前になると「自分の力で頑張れ」と別の支店に異動になる…という感じです。

医F:自分のキャリアについて考えることってあるんですか?

社C:考えてはいますけど、正直に言っていま悩んでます。僕は異動が多くて今の部署が4つ目なんですが、上司とウマが合わなくて…。このままの状況で漫然と仕事してるとマズイなって焦り始めてるんですよ。

社B:社会に出たばかりの頃はキャリアなんて現実感がなかったけど、この年次になると少しずつリアリティーが出て来てるなって感じています。

医E:広告代理店って転職する人が多いんですか?

社C:多くはないけど、同期からも転職が出始める時期ですね。転職先はマーケティング業界、クライアント企業、後は公務員に転身する人もいるかな。

社B:公務員は選択肢として、非常に「アリ」だよね。

医D:何で公務員なんですか?

社C:公務員は時間が計算できるから、生活スタイルを確立しやすい。マスコミ業界は、労働時間がかなり長いしね。僕自身は9時半に出社して、終電で帰れたらラッキーですね。

社A:逆に、医師は他の診療科に移ることはないんですか?

医F:診療科を移るっていうのはほとんどないですけど、医局に入ると社会人が転勤するように大学と関連病院を行き来することになります。じゃあ君は来月から別の病院ねということはよく聞く話ですね。

社B:僕が百貨店の販売職から生鮮食品のコンサルタントに転身したように、社会人はキャリアの転機で職種や業界そのものを変えることがあるという点が異なっていますね。

やりたい仕事をやれる環境を自ら作る

医E:転職せずに社内に残っても、キャリアアップはできるんじゃないですか?

社C:たしかに、頑張っていればわりと自分がやりたい仕事をできる環境はあります。僕はサッカーが凄く好きなのでサッカーに関係した仕事とか、個人的な思いで仕事をやろうと思えばできます。でも、やりたい仕事以外にも所属している部署のミッションはあって、それにはちゃんと応えなきゃいけない。逆にそういう日々のタスクの質を高めていけば、周りからルーチン的な仕事を押し付けられることが少なくなる。だから任された仕事を頑張りつつ、やりたいことに関しては自分で努力して辿り着くという意識が大事だと思っています。

社B:うちのような社員40人ぐらいの規模の会社だと、一人で色んな役割をこなすことになるぶん自分の成長につながるとは思うんだけど、今の話を聞いてるとやっぱり大企業は自分のやりたい仕事を提案できる風土があるんだなと思います。

医E:やりたい仕事のために自分で起業するという選択肢もあるんですか?

社B: 自分のやりたい仕事が明確に見えていれば、起業するのもいいのかもしれないですね。でも、僕の場合はまだまだ今の会社で成長の余地があると思うので、起業というのはその後の話ですね。

同世代のリアルティ

医学生×社会人 同世代のリアリティー

キャリア・出世 編-(後編)

出世するって、どういうこと?

社A:最近の若い人は出世したがらないって聞きますよね。確かに、お金は欲しいけど出世したくないって人が自分の周りにも多い気がする。

社B:医師の出世って言ったら、例えば教授を目指すってイメージがあるけど、どうですか?

医D:僕はとにかく研究がしたいんです。教授になると権限は大きくなるけど、自分で研究するよりも部下の研究を見るのが主になるので、あまり面白くなさそうですよね。

社A:医師以外も同じなんだけど、管理職って難しいよね。

医F:僕は将来海外に行って医療に携わりたいので、医局で評価されて順当に出世していく…という生き方とは違うのかな。最終的に開業したいなとは思ってますけど。

社B:周りを見ていて、出世にはデメリットもあるなあと思う。バブルの頃とは違って会社が拡大するという感じでもないし、それなら出世しなくてもいいやっていう人は出て来ますよね。医師のなかで教授になる人って、どういう人が多いんですか?

医F:やっぱり学生から見ていても、カリスマがある人が多いと思います。いい意味で変わってるというか、我が道を行くっていう感じですかね。

社C:僕は昔より、出世の意味をポジティブにとらえるようになりましたね。出世ってなんか、イコール金とか権力とかモテとか、そういうイメージだったから昔は嫌だった。でもやっぱり出世すると、できる仕事の幅が広がって、影響の及ぶ範囲が広がる。例えば偉い人に動いてもらわないと話が進まない場面って結構あるんですけど、偉い人を説得するのって超大変なんですよ。なら自分が偉くなる方が早いじゃん、と最近思うようになりました。

社B:あと、肩書きっていうのが、特に古き良き日本企業を相手に仕事をする時には重要になることが多い。部長が出てこないと話が進まないとか結構あるんですよ、日本は。

医D:医師の世界でも、教授じゃないと決められないことって多いですよ。

社B:そういう自分だけでは話が動かない場面を経験すると、出世する必要性を嫌でも感じますね。社会で働く以上はやはり、大きな案件を一人で動かして意思決定をしていきたいと思いますから…。

出世できない人 出世を拒む人

医D:出世街道を外れたいわゆる「窓際族」って周りにいます?

社A:いますねえ。会社の方針と違うことをしちゃった人とか、後は仕事ができないと見なされた人とか。ただ銀行ってクビを切られることはまずないし、出世組でも窓際族でもあまりお給料は変わらないんで、そこを割り切っちゃえば楽なのかも。

社B:うちも、各々の部署で凄い人と凄くない人は見ていて分かるし、この部署はイケてない人が集まってるなっていうのは、正直ありますね。

医E:会社ではどういう人が評価されて出世していくものなんですか?

社C:やっぱり一番は、稼いで来る人。デカい仕事を取って来て、それを回せることが評価される土壌があります。でも、そうやって社内で評価されても、出世にあまり興味のない人が多いのもうちの業界の特徴ですね。自分の好きなことベースで働いてる人が多いから、「部長になっちゃうと面白くない!」って言って、部長昇格試験を半分以上の人が断るんです。

医F:せっかくの出世を断るんですか?その人たちは、例えばどんな仕事をしてるんですか?

社C:比較的暇な部署にいて毎日5時半に帰るんだけど、実は映画評論の世界では凄い有名だったり、格闘技のプロで、自分の試合に取引相手を呼んで大きな契約を取ったり、様々ですね。

医D:社内の仕事だけでなくて、社外でも面白いことを探してやっている人たちなんですね!

社B:これからの時代、社内で出世するにしても社外で独自の活動をするにしても、「自分の未来は自分で切り拓く」っていう意識を常に持ってないといけないんだと思っています。ただ与えられた仕事をこなしてるだけだと、気付いた時にはキャリアが年次に伴ってない、なんてことになりかねないから…。

医D:それは医師にも同じことが言えますね。転職や異動など、社会人にはいろんなキャリアの転機があるようですが、医師も自分でキャリアを築くという意識を持たなければならないのは共通していると思います。今日はありがとうございました。

* お話を聞いた社会人の年次や部署は、取材時(2013年3月)のものです。