地域医療ルポ
医師の資格を活かし、自らの生き方を全うする

長崎県五島市岐宿町 山内診療所 宮﨑 昭行先生

長崎県五島市岐宿町
五島列島最大の島である福江島中部に位置する。五島市全体の人口は約41,000人で、海上交通の拠点である福江港近くには総合病院もある。岐宿町に診療所は3つ。山あいの複雑な地形であることから、町内だけでなく周囲の町から山内診療所に通う患者も少なくない。
地域医療ルポ(長崎県五島市岐宿町)

牛や馬を使って田畑を耕し、手で苗を植え、無農薬で米を育てる。生活に必要な道具は既製品を使わず、桶や草履などの作り方を一から教わり、自分で作る。もちろん医師としての仕事もする。自作の桶に医療用品を入れ、自転車の後ろに積んで往診に出かける――。馬とたわむれながら「日本の伝統的な技術を残す」という自らのライフワークについて語る宮﨑先生の目は、まるで少年のようだ。

宮﨑先生の働く山内診療所は福江島のほぼ中央、山に囲まれた五島市岐宿町にある。国保の町立診療所だったが、13年前、後継者がおらず存続が危ぶまれていたところを、宮﨑先生が買い取る形で引き継いだ。縁のない土地ではあったが、その自然の豊かさに惚れ込んだからだ。

「若いころに、勤労者山岳連盟の随伴医師としてネパールに行ったことがきっかけで、環境エネルギー問題に興味をもちました。石油や科学技術ばかりに頼らず、日本の伝統的な技術を活かした生活スタイルを残しながら暮らしていきたいと思うようになったんです。特に『農業をやりながら医療ができること』が自分の中の大きなテーマでした。そんな私にとって、岐宿は天国のようなところだと感じます。よそ者の自分にも、地域の人たちがいろいろな伝統技術を一から教えてくれた。だからこそ今の自分があるな、と。」

地域医療は農業と似ているのではないか、と宮﨑先生は言う。

「豊作の年も不作の年もありますが、それでも長く関わっていくのが農業です。悪天候や害虫など、その時々に起こる問題に対処しながら米を育てていく。地域医療にもこれと似たところがあるのではないかと私は思います。人々の生活をよく見て回り、調子が悪い人がいたら何でも診療し、結果的にこの地域の人たちの人生を最後まで診ることになる。人と人との距離が近いので、責任を持たなければならないという感じはあります。」

自分らしいスタイルを全うしながら人の役にも立っているという宮﨑先生の生き方は、地域医療に携わる医師だからこそできることかもしれない。

「私が好きな農業をやり続けられるのは、医師として社会的に敬意を抱いてもらえるおかげなのかもしれない。だから私も地域への恩返しのような気持ちで、急患は必ず診ています。医師という資格を活かすことで、やりたいことをやりながら地域の役にも立てる。私はこうしてこの地域に溶けこむことができたので、このままここで最期を迎えるつもりです。私の子どもたちも、すっかりこの島に根づいているんですよ。」

地域医療ルポ(長崎県五島市岐宿町) 地域医療ルポ(長崎県五島市岐宿町) 地域医療ルポ(長崎県五島市岐宿町)
(写真左)山内診療所の外観。
(写真中)自作の桶を披露する宮﨑先生。
(写真右)待合室には様々な伝統工芸品が置かれている。
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