医療倫理-(前編)

日本医師会は医師の職能集団として、
医師が倫理的な判断を行うための指針を定めています。

医療倫理の取り組みは多岐にわたる

「医療倫理」という言葉を聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。例えば、臓器移植や尊厳死、緩和医療にかかわる事例など、医療技術の発展にともなって、「この治療を行うことは本当に正しいのか?」と問わねばならない場面が増えてきました。治療の選択肢が広がったことで、他の治療を行うべきだったのではないかと責められたり、積極的な治療を行ったことを否定されたり…ということも増えてきています。

生命と向き合う医療の現場では、倫理を問わねばならない場面が多々あります。それゆえ、医療倫理に関する日本医師会の取り組みも非常に多岐にわたります。大きくは、脳死と臓器移植・終末期医療・遺伝子治療・出生前診断などに関する問題を扱う「生命倫理」、ヒトに関するクローン技術・遺伝子解析・遺伝子操作・ES細胞・iPS細胞などに関する問題を扱う「医学研究の倫理」、医師の職業人としての倫理を問う「職業倫理」の3つに分けられます。

特に生命倫理に関する取り組みは歴史が長く、1986年度より日本医師会生命倫理懇談会が活発な議論を行っています。2012・2013年度の第ⅩⅢ次生命倫理懇談会では、「今日の医療をめぐる生命倫理―特に終末期医療と遺伝子診断・治療について―」と題し、これまでも議論を尽くしてきた終末期医療について再び取り上げるとともに、遺伝子診断・治療という新たな生命倫理の課題について、専門家によるヒアリングをもとに審議を進めています。

医師の職業倫理について指針を定める

このように様々な問題が議論される中でも、医師は専門職としての自律性(professional autonomy)を維持しながら、診療を続けていかなければなりません。そして自律性を確保するには、医師が自覚を持って倫理的に振る舞い、患者からの信頼や社会的評価を獲得する必要があります。そのために、日本医師会は様々な情報を提供し、医師自身に問題意識を持ってもらうよう努め、さらに医療倫理における指針を定めてきました。

具体的には、日本医師会は1951年に「醫師の倫理」を定めました。その後、社会状況の変化に対応するものとすべく検討を重ね、2000年に新たに「医の倫理綱領」を策定しました。さらに具体的事例にかかわる「医師の職業倫理指針」(以下、倫理指針)を2004年に定め、日本医師会全会員に配布し、2008年には改訂を行っています。2006年には冊子『医の倫理 ミニ辞典』を会員に配布し、2012年にはその内容を見直したものを「医の倫理の基礎知識」としてWEB上に掲載し始めました。

医療倫理

医の倫理綱領

医学および医療は、病める人の治療はもとより、人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので、医師は責任の重大性を認識し、人類愛を基にすべての人に奉仕するものである。

1.医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、その進歩・発展に尽くす。

2.医師はこの職業の尊厳と責任を自覚し、教養を深め、人格を高めるように心掛ける。

3.医師は医療を受ける人びとの人格を尊重し、やさしい心で接するとともに、医療内容についてよく説明し、信頼を得るように努める。

4.医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす。

5.医師は医療の公共性を重んじ、医療を通じて社会の発展に尽くすとともに、法規範の遵守および法秩序の形成に努める。

6.医師は医業にあたって営利を目的としない。

平成12年4月2日採択 於 社団法人 日本医師会 第102回定例代議員会

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