医師への軌跡

イギリスでの経験をもとに、
ジェネラリストの育成や多職種教育を実践していく
一戸 由美子

イギリスで家庭医療を学ぶ

急性期病院で様々な診療科を経験したが、一戸先生は自分が所属したいと思える科を見つけられずにいた。そんな中、イギリスに住む友人を訪れた際、はじめて家庭医(GP)に出会う。「臓器別の疾患を治療するのでなく、人と生命というものに関わるような医療がないか…ためらっていた私にとって、ジェネラリストという専門家として、患者さんと長く深く関わることのできるGPは、とても魅力的に見えました。」

4年の臨床経験の後に渡英。GP研修プログラムに参加し、ますますその魅力に取りつかれた。しかし実際にイギリスでGPとして臨床に出ると、限界を感じることも多かった。患者さんの生活に深く関わるが故に、どうしても文化の違いでわからないことが出てきてしまう。ならば、日本で臨床に携わる方が患者さんのためにもなるのでは…そう考え、日本に戻った。

帰国後、一戸先生は臨床と教育の双方に関われるところを探した。「ジェネラリストという観点で言えば、地方で『何でも診られる医師』になるという選択肢もありましたが、私は専門医と連携しながら患者さんの『窓口』になるような医師になりたかったので、都市型の地域医療の場を選びました。」

臨床と教育の双方に携わる

そして東京・杉並区の河北総合病院で家庭医療のセンターが設立される折、一戸先生はセンター長に就任。「ここは以前から在宅医療や訪問看護が充実しており、かつ社会福祉にも力を入れていたので、うまく融合できるなと感じました。臨床研修病院でもあるので、診療所でも教育に関われると思いました。」

イギリスのGP育成の長所として、指導医が必ずついて専用のプログラムで研修し、誰でも一定レベルのスキルを身につけられる点が挙げられる。一戸先生は、日本の研修システムにそうしたGP研修の長所を採り入れた研修プログラムを作り、日本プライマリ・ケア連合学会が認定している家庭医療専門医・認定医を指導者として、初期研修医および後期研修医を受け入れている。昨年初めて2名がプログラムを修了し、今年は3名が在籍している。

多職種教育を行いたい

将来的には、イギリスで行われている多職種教育、IPW(インター・プロフェッショナル・ワーキング)を日本でも実施していきたいと考えているそうだ。

「急性期医療の分野よりも、患者さんと長く関わる家庭医療の分野でこそ、訪問看護師やソーシャルワーカー、ケアマネージャーといった職種が、互いの専門性を知り、尊重した上で高め合うことができるのではないかと思っています。

最終的には『1+1は2以上』になるような協働を目指して、試行錯誤を続けています。具体的には、朝のカンファレンスや合同勉強会、研究や学会発表を一緒に行うといった取り組みを始めています。」

一戸 由美子
河北総合病院 東京・杉並家庭医療学センター長 英国家庭医協会認定研修医
1995年秋田大学医学部卒業。様々な診療科をローテーションした後、イギリスに留学。英国医師資格・英国家庭医協会認定研修医を取得し、帰国。2006年より現職。臨床だけでなく、家庭医*を目指す医師や医療関連職種の教育にも関わる。
*家庭医:イギリスの家庭医(ホームドクター)制度におけるGPとは異なり、ここでは各家庭のかかりつけ医となるようなジェネラリストを指している。
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