医師会の三層構造(前編)

医師会は、どんな組織体制で「国民の健康と医療提供体制を守る」活動を行っているのでしょうか。行政組織と比較しながら、簡単に紹介していきます。

郡市区等医師会

 ※本文中では「郡市区医師会」と表記

・数:889(うち大学医師会62、その他13)
 ※平成25年4月末現在

・会員:190,566人

・市区町村と連携

地域医療の最前線のベースを守る
地域医療の最前線で活動しているのが郡市区医師会です。市区町村と協議を行いながら、学校健診や乳幼児健診、予防接種などの予防医療や、一次救急医療体制の維持などを行っています。また、医師会病院、老人保健施設、看護師養成学校、健診センター、訪問看護ステーションなどを運営している場合もあります。

都道府県医師会

・数:47

・会員:180,626人

・都道府県と連携

都道府県民の健康を守る協議を行う
各都道府県の医療政策に基づき、都道府県民の健康を守るための各種協議会や啓発活動を行います。また、救急・災害医療に関する取り組みは都道府県医師会が主体となって行っている場合が多いです。さらに、都道府県医師会は大学との窓口にもなっており、学術・教育・研究部門の支援活動も行っています。

日本医師会

・数:1

・会員:165,650人

・国と連携

医師の代表として国に提言
医師を代表し、国・官公庁に対して医療政策に関する様々な諮問や提言を行っています。日本医師会内には、医療における様々な問題について議論する52の委員会があります(平成24・25年度)。さらに厚生労働省や内閣府を中心に年間約600回開催される官公庁の審議会では、役員が医療提供側からの意見を提出しています。

※郡市区等医師会・都道府県医師会の会員数は平成20年12月1日時点でのデータ(参考:日本医師会「郡市区等医師会に関する調査」)、日本医師会の会員数は平成24年12月1日時点のデータより

国民の健康や医療提供体制を守る

医師会活動の基本には、「国民が健康に暮らし、必要な時には安価で質の高い医療を受けられる体制を作る」という理念があります。国民や市民の健康・安全を守るのは、国や自治体の役割であるのはもちろんですが、国や自治体に所属する医療の専門家の数は限られています。国や自治体は、法律や制度を作ることはできますが、実際に人々の健康を維持し医療を提供するには、医師をはじめとする医療専門職が必要です。単純に言えば、医師会は、国や自治体と協力しながら、医師という現場の担い手として、国民の健康や医療提供体制を守るために活動しているのです。

それを実現するためにはまず、健康診断の実施、予防接種の実施、救急医療体制の充実、休日夜間診療体制の構築…といった「現場」の取り組みが必要です。またそれらに加え、そうした取り組みを制度化し、必要な予算をつけ、ルールやガイドラインを作るといった「仕組みづくり」も必要です。医師会はその現場と仕組みづくりを行政と連携して行っているのです。

医師会の三層構造(後編)

行政の三層構造に合わせた役割分担

さて、行政は市町村・都道府県・国の三層構造を基本としています。具体的に言うと、最も住民に近く、実際に行政サービスを実行する部分を市町村が行い、市町村が様々な取り組みをしやすくする環境整備や、広域的な調整を必要とする取り組みについては都道府県が行い、法律や予算の大きな枠組み・ルールづくりは国が行っています。

少し噛み砕いて、「飲酒運転を減少させるために厳罰化すること」を例に考えてみましょう。まず、こうした方針を立て、道路交通法を改正するのが「国」(国会)の仕事です。法律が改正されると、それを受けて、国の行政機関である警察庁が運用ルールを定め、各都道府県の警察本部に周知します。各都道府県の警察本部は、その周知を受け、市町村レベルで配置されている警察署に周知するとともに、広域的な取り締まりの計画を立てます。そして、実際に飲酒運転の検問を行ったり、事故処理の際の飲酒検知を徹底したりといった実務を行うのが、各市町村の警察署に所属する警察官…というわけです。

医師会も行政と同様に、医療という公的サービスを支える組織として、国・都道府県・市町村(広域)の三層で役割分担をしています。すなわち、住民に最も近い市や郡のレベルで活動する「郡市区医師会」と、それらの活動を取りまとめる「都道府県医師会」、そして国の制度やルールへの働きかけを中心に活動する「日本医師会」の三層に分かれているのです。

それぞれが独立した組織として活動

ただし、医師会には行政の構造と大きく異なる点があります。それは、「郡市区医師会」「都道府県医師会」「日本医師会」が、それぞれ独立の組織であるという点です。というのも、医師会には、地域住民の生活エリアに沿って、その地域の医師が自発的に組織を作り、地域の医療体制を守ろうと活動してきたという歴史があります。つまり郡市区医師会は、日本医師会に「市や郡のレベルで医師会を作って下さい」と指示されて作られた組織ではなく、医師自らが地域の医療に貢献したいと考え、組織的な医療提供体制を築いていくために、連帯する形でできてきた組織なのです。

医療を支える車の両輪

ですから、市民に一番近いところで医療の現場を担う郡市区医師会と各地の自治体(市町村)は、医療を支える車の両輪として密接に連携して活動しています。そのため、地域によって異なる健康問題や、医療提供体制の事情に応じて、郡市区医師会の活動内容は非常にバリエーションに富んだものとなっているのです。次頁以降で詳しく紹介しますが、例えば急性期病院が無い地域では、医師会が中心となって中核医療機関を整備することもありますし、看護師が足りないという地域の事情に合わせて医師会立看護学校を作ってきた医師会も多くあります。

それぞれの地域の事情を、診療などで地域住民と触れ合う中で感じ取って、自発的に対応する――それが、郡市区医師会の基本的なスタンスです。もちろん、感染症対策などといった、国全体で取り組む健康づくりのための活動や医療提供の「現場の担い手」としての役割もありますので、独自の活動だけを行っているというわけではないのですが、「自律性」を持って活動をしているのです。

このように、「医師会」という組織は、行政と横の連携を取る形で三層構造を成してはいるのですが、実際は上意下達の組織ではなく、独自に活動する「郡市区医師会」「都道府県医師会」「日本医師会」という3つの組織が、縦の協力関係のネットワークで結ばれている…という構造になっているということを理解していただければと思います。