医師会の今後について 
役員と学生が真剣に話してみた(1)

今後、医師会と医学生はどのように関わっていけるのか?役員から医師会の説明を聞いた上で、ざっくばらんな意見交換を行いました。
今村先生道長先生

「医師会」について

A:まず、どんな経緯で「医師会」に入られた先生方が多いのでしょうか?

今村副会長(以下、今):医師会は「地域住民の健康と医療を守る」活動を目的とした組織ですが、はじめからその志を持って入る先生ばかりではありません。開業医であれば、郡市医師会が委託を受けている予防接種や健康診断について、自分の診療所でも受け入れられるようにしなければ、といった現実的な理由が入会のきっかけになることも多いでしょう。

道永常任理事(以下、道):でも、実際に医師会に入ってみると、地域の医療現場の問題がいろいろ見えてくるんですよね。そこに問題意識を持って、「じゃあ自分が活動することで医療をより良くしよう」と感じた人が、医師会の活動に積極的に関わってくれるようになるんです。

今:私も、はじめはたまたま当番で医師会の役員になったんです。でも、実際にやってみると、「どうしてここを直さないの?」「もっと改善できるんじゃないの?」と、気づくようになる。で、それを周りに言っていると、「じゃあ、それ先生のお仕事ね」と言われて、私の仕事になるわけです(笑)。だから、はじめから高い理念を持つ人ばかりではないけれど、「おかしいな、こうした方がいいな」という問題意識を持った人が主体的に関わることで、医師会活動が成り立っているんです。

B:医師会には開業医が多く、勤務医が少ないのはなぜですか?

今:まず、医師会員の約半分は勤務医であり、開業医が特別多いわけではありません。しかし、勤務医の中に医師会に入会しない人が多いのは事実です。理由として、さっき挙げたような現実的な理由がないことと、医師会が何をやっているか知らないことがあるのではないでしょうか。かくいう私も、勤務医時代は医師会に全く興味を持っていなかったし、新聞やニュースで「医師会は開業医の圧力団体で…」と書いてあるのを鵜呑みにしていたくらいですから(笑)。

C:では、今勤務医で医師会に入っている先生方はどうして入られたんですか?

今:医療は大規模病院だけで完結するものではなく、地域の医療機関と連携して患者さんを診ることが求められるからです。そうした病診連携をスムーズに行うためには、普段からの医師どうしの交流や情報交換が必要になる。だから大規模病院の管理職の先生の多くは医師会に入っていますね。

D:新聞やニュースなどのマスコミで取り上げられているのを見て、医師会に対してマイナスのイメージを持っている人も多いように感じています。今回の座談会に友人を誘ってみても、興味を持っている学生もいれば、ちょっと一歩を踏み出しづらいという学生も少なくありませんでした。

今:そうですね…私ですらそう思っていたくらいですから、学生さんはなおさらそうでしょうね。医師会も、定期的な記者会見を行うなどメディア向けの情報発信はしているのですが、官僚や政治家と同じで「ここを叩いておけば間違いない」存在ですから、なかなか私たちの活動を肯定的に報じてくれないという部分はあります。だからこそ、地道な情報発信を続けていかなければならないと思っています。

道:けれど、医師会も最近は随分変わってきているんですよ。

A:具体的にはどのように変わってきたのでしょうか。

今:例えば、以前の医師会には、若干ですが「身内に甘い」雰囲気があったかもしれません。医療倫理に反した行為に対する処罰・処分に関して、仲間をかばうような雰囲気もあったと聞くことがあります。また、勤務医の労働環境改善にしても、病院経営者にとってはデメリットになりますから、あまり積極的に取り組んで来なかった側面もあったのではないでしょうか。
しかし近年では、勤務医や研究者を含めた多方面からの提案が採り入れられるようになってきています。例えばこの『ドクタラーゼ』という冊子で、会員ではない医学生にアプローチを始めたのも、医師会にとっては画期的なことです。他にも、勤務医の労働時間についてのガイドラインを策定するなど、広く新しい取り組みが始まっています。良い意見はどんどん取り入れようという雰囲気が今はありますよ。

医師会の今後について 
役員と学生が真剣に話してみた(2)

女性医師支援・ワークライフバランス

C:では、具体的な取り組みについて聞いてもいいですか? 先日、女性医師のワークライフバランスについてのイベントに行ってきたのですが、女性医師が増えている中で、医師が育児休暇を取ることを、医師会ではどのように考えていますか? また、産休・育休などによって不足する医師を補う仕組みはあるのでしょうか?

道:医師がどのくらい育休を取れるかは、病院の管理職の考え方で全く変わってきてしまうというのが現状ですね。もちろん産休は法律で定められているので取れるようにしなければなりませんが、管理職の先生が「もう戻ってこなくていいよ」なんて言ったりすることも、残念ながらまだあると聞きます。逆に、うまくやっている病院もあります。休みたい先生がいる一方で復帰したいという先生もいるわけですから、その兼ね合いをうまく調整すれば、絶対にうまくいくはずなんです。

今:医師会の役割は、実際にうまくいっている良い取り組みを、モデルケースとして広く紹介していくことではないかと思います。例えば、医師の職場環境改善ワークショップ研修会では、実際に20近くの病院の幹部が集まって、女性医師支援の取り組みを紹介しながら、ノウハウを共有しました。日本医師会としても、もっと女性が働きやすい環境になるよう、メッセージの発信とノウハウの共有に積極的に取り組まなければと思います。

かかりつけ医・総合診療・家庭医

C:最近、「総合診療医」や「家庭医」など、プライマリ・ケアに重きを置いている先生方にお話を伺う機会が多いのですが、そういった医療のかたちについて、医師会ではどのように考えていますか?

道:これから高齢化が進むと、一人の人がいろいろな病気をもっている場合が増えます。そうなると、ひとつの診療科ごとにそれぞれの医療機関にかかるのも合理的でないし、またそれぞれの疾患のかかわりについても考えなければなりません。

今:日本は専門医志向がとても強くなってきています。内科の中でも消化器、さらには肝臓内科…というように細分化されて、他は診ないという先生が増えてしまった。
しかし高齢者に関しては、もうちょっと総合的に診る必要があると私も思いますし、総合的な診療能力を持った医師を養成する必要性は日本医師会も認識しています。最近の専門医制度の答申の中にも「総合診療医」という専門医を創設する方針が盛り込まれました。
ただ、日本医師会としては、「家庭医」という言葉の使い方には少し慎重な姿勢を取っています。なぜなら、家庭医という言葉の元であるイギリスのホームドクター制度は、地域住民の健康管理を国家から委託され、管理する人数に応じて報酬が支払われるシステムです。イギリスでは、患者さんはまず担当のホームドクターに診てもらい、そこから紹介を受ける形が原則なので、日本のような「フリーアクセス」の形ではありません。このように医療システムが根本から異なるので、イギリスのホームドクターとの混同を避けるためにも、「家庭医」という言葉を使うことに慎重になっているのです。けれど、総合的な診療能力を持った医師を育成し、各家庭がかかりつけ医を持つという考え方にはもちろん賛成です。

E:では、そうした総合的な診療能力を持つ医師を育てるために、医師会ではどんなことができるのでしょうか?

今:現在の制度では、大学入学から初期臨床研修までの8年間で総合的な診療能力を身につけてもらおうということになっています。しかし日本医師会は、もう少し現在の知識偏重の医学部教育や医師国家試験を見直して、学生時代に総合診療能力を身につけられるような教育にシフトしていくべきだと主張しています。みなさんが国家試験を受けるころには間に合わないと思いますが、議論を重ねている最中です。


医師会の今後について 
役員と学生が真剣に話してみた(3)

混合診療の全面解禁の是非

B:よくニュースなどで聞く「混合診療」について、医師会はあまり肯定的でないような印象を受けますが、なぜですか?

今:いわゆる「混合診療」とは、保険診療と自由診療を同時に組み合わせて行うことですが、現在でも部分解禁はされているんです。安全が保障されていて、将来保険適用がされる可能性が非常に高い医療に関しては、医師会は保険診療と組み合わせて使うことを反対していません。けれど、全面解禁には反対の立場をとっています。

道:抗がん剤などに関して、「アメリカで認められている薬がなぜ日本で使えないんだ」という患者さんからの声は理解できます。けれど、日本での評価が定まっていないものを導入しようとすると、何か事故が起きても患者さんの自己責任ということになってしまう。全面解禁したら、質が担保されていないものがお金儲けのために売り出されるようになるでしょう。それらがすべて自己責任ということになったら、患者さんにとって危険ですよね。

今:自己責任と言うのは簡単ですが、イレッサのような副作用が起きることもあります。我々は専門家として薬や治療法の安全性をしっかりと担保していく必要がありますし、それは個々の医師を守るためでもあると思います。
また、どの国でも医療の高度化や高齢化にともなって、医療費抑制の圧力が高まっています。混合診療を全面解禁すれば、医療費を抑制したい立場の人たちは保険診療の範囲をどんどん狭めていくでしょう。すると、自由診療の割合はどんどん増え、多くの医療行為が自己負担を強いられるものになってしまいます。混合診療のプラスの側面だけを見るのではなく、医療全体を見渡した上で、その全面解禁が本当に良いことなのかをよく考えてほしい、と思いますね。

予防医療・健康増進

F:人が病気になってから治療をするよりも、日常的に健康管理をしたほうが医療費はかからないのではないでしょうか。予防医療に保険は適用できないのですか?

道:確かに、予防医療を通して日常的に健康管理をしたほうが経済効果は高いでしょう。しかし、例えば健康診断の診断項目は法律では地域にかかわらず同じものなのですが、自治体が地域の医師会と相談して、サービスとしてオプションをつけている場合があるんです。日本医師会は、日本国民が生まれてから死ぬまでに受けられる保健・医療は同じであるべき、という理念を持っていますから、自治体や地域によって異なる予防医療を、平等であるべき医療保険制度に乗せるのは現時点では難しいですね。

今:医療保険ではなくとも、予防医療を受けやすくする必要はあります。現在の健康診断や予防接種の多くは、職場や自治体が実施主体となっているので、人によって受けられる範囲に差がある。日本医師会では、予防医療が大事だからこそ、「国が責任をもって費用負担していくべきだ」と働きかけています。


 

医師会の今後について 
役員と学生が真剣に話してみた(4)

今後、医学生が医師会に期待すること

E:今日参加してみるまで、医師会が何をやっているのか全然知らなかったので、とても勉強になりました。医学生が医師会に対してマイナスのイメージを持っているのはもったいないと思います。医師会の側から、もう少し肯定的なイメージや情報を発信してもらえたら、医学生も歩み寄れるような気がします。

D:ただ、学生が医師会に関わろうと思ったときに、どこにアクセスしていいかわからないなと思います。何か活動したい、医師会に協力を仰ぎたいというときに、学生が問い合わせられる窓口があれば、もっとアクセスしやすいと思います。

道:それは必要ですね。まずは『ドクタラーゼ』を窓口にするのがわかりやすいかと思うので、何かあったら問い合わせてみてください。学生のみなさん自身から、学生と医師会が交流するアイデアがあったらぜひ出してほしいです。

F:私は学生団体の活動として、都内で医療学生が集まれるカフェ形式のプラットフォームを作っていますので、そういうところから拡げていくのもいいかなと思います。あと、学生に情報発信するなら、紙だけでなくフェイスブックなどのSNSをやるのがいいと思います。

C:私は、医師会内の52の委員会が取り上げている問題に対して、その委員会に直接参加するのは難しくても、学生や研修医などの若い医師が意見交換をする場があったら面白いなと思いました。

今:実は今『ドクタラーゼ』で、今日よりもっとたくさんの学生さんを分科会形式で集めて、テーマごとに医師会役員と意見交換ができるような企画を考えています。そういう機会があったら、また周りの方も誘って参加していただけたらと思います。

C:あと、授業を受けながら感じるのは、自分たちが今受けている授業が、臨床でどう役立つのかが見えないなと。医師会は医学教育にも関わっているし、現場の医師もたくさんいる団体なので、両者をうまくつなげることで、「自分が今受けている授業はこう役立つんだ」ということを知る機会を作れるのではないかと思います。

今:良いアイデアですね。こうしていろいろな提案を出してもらうことで、「それって大事だね」「やっぱりやらなくちゃね」という声が大きくなって、最終的に国の政策に取り入れられたりすることが、最近増えてきているんです。
勤務医の先生や学生さんたちが個人の立場で提案していくのは難しいかもしれないけれど、医師会の組織やネットワークを使えば、実現しやすくなることもあると思います。医師会は影響力はありますから、自分たちのやりたいことのためにぜひ医師会という枠組みを有効活用してもらえたらと思っています。今日はどうもありがとうございました。



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