産科医療と医師会

医師が抱えざるを得ないリスクを
少しでも軽減するための制度があります。

産科における 無過失補償制度の創設

医師になったとき、医療事故のリスクは常にみなさんについて回ります。どんなに注意して診療を行っても、事故が起こる可能性を完全に取り除くことは難しいでしょう。さて、事故が起こったとき、それが医師の過失による場合には医賠責がその賠償と紛争の解決の役割を果たします(本誌3号参照)。
一方、医師として過失がないのに不可避的に生ずる被害について補償を行う制度は、無過失補償制度と呼ばれます。この制度を産科に適用したのが、産科医療補償制度です。  

産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償する制度です。日本医師会は無過失補償制度の実施について各分野で検討を続けてきましたが、困難が多くあり、実際の制度の創設には至りませんでした。その中で、本制度を産科において実施することができたのは、産科で無過失補償制度が必要とされる差し迫った状況があったからです。産科医不足が社会問題化する中、2006年には、医療事故で、産科医が逮捕・起訴される事件が起こったのです。このことにより産科医の減少に拍車がかかり、国民に十分な産科医療が提供されなくなることが危惧されました。状況を打開するために試行錯誤が重ねられ、医師が安心して医療行為にあたることができ、国民は万が一の場合にも十分な補償を受けることができるよう、産科医療補償制度が創設されました。

産科医療に対する 医師会の取り組み

今村定臣常任理事産科医療補償制度の創設は、日本医師会の「医療に伴い発生する障害補償制度検討委員会」、「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度の制度化に関するプロジェクト委員会」の検討結果を受け、日本医師会が政府に働きかけて実現したものです。日本医師会は2006年に発表した「子ども支援日本医師会宣言」に基づき、母子に関する医療・保健・福祉環境の整備等を推進し、また次世代を担う子どもたちが心身ともに健やかに育つことを目指して活動しています。  

「産科は本来疾患を扱う科ではなく、その魅力は何よりも、母子ふたつの命に関与することができる喜びにあると思います。ただし、そこには命の誕生の喜びが奪われてしまう可能性も、常にある程度存在します。そのため、産科の医師は自分に過失がないのに訴訟に巻き込まれてしまうリスクも高く、多大なストレスが存在するのも事実です。日本医師会では、みなさんが少しでも働きやすい環境を整えるため、産科医療に関するさまざまな取り組みを行っています。また、産科に限らず、不可避的に生じた事故について、患者側にしっかり補償をするとともに、医療提供者側を守ることができる公的な仕組みを整えていかなければなりません。産科医療補償制度はその第一歩であり、この取り組みは他の診療科にも広げていきたいと考えています。」(今村常任理事)

 

子ども支援  日本医師会宣言

1. 妊娠を望む人たちへの 支援に取り組みます。

2. より安全な妊娠・出産に向けての 医療環境の充実を図ります。

3. 満足できる妊娠・出産に関する 社会環境の整備に取り組みます。

4. 子どもが育ちやすい 医療環境の充実を図ります。

5. 子育てに関する社会環境の 整備に取り組みます。

6. 学校保健の充実を図ります。

7. 障害児などへの支援に 取り組みます。

8. 子どもや子育て支援のための諸施策について政府等関係各方面への働きかけを行います。