医師への軌跡

女性の少ない泌尿器科で、
過活動膀胱の臨床と研究をリードする
窪田 泰江

患者さんのQOLを高める

高齢化にともない、頻尿や失禁の原因のひとつである過活動膀胱で通院する患者さんが男女ともに増えている。排尿の問題は非常にデリケートであるため、同性の医師の診察を希望する患者さんが多いのだが、泌尿器科にはまだまだ女性医師が少ない現状がある。窪田先生は、名古屋市立大学病院唯一の常勤女性医師として臨床と研究の両方に携わっており、日本医師会医学研究奨励賞など様々な賞を受賞されてきた。この分野をリードする医師の一人だ。

「命に関わる疾患は少ないですが、頻尿や失禁のせいで思うように外出できないと言って、家に引きこもってしまう患者さんも少なくありません。そうした患者さんのQOLをいかに高められるかが、この分野のやりがいのひとつです。」

生理学分野で研究・留学

窪田先生が泌尿器科を選んだのは、診断から治療まで一貫して診ることのできるスタイルに魅力を感じたからだった。しかし1人目の子どもを出産した頃から、臨床と子育ての両立の難しさを感じるようになった。というのも、子育てをしながら手術や病棟業務などを全て担当するのは、時間的にも体力的にも大変だったからだ。どうしようかと考えていたとき、ちょうど生理学の教室で週に2〜3日、研究する機会をもらえたことが転機となった。

「生理学の教室に出る形で研究に携わることになりました。病棟業務と当直を外してもらうことができ、おかげで両立は随分楽になりました。研究を始めた当初は、その教室で既に確立されていた消化器の研究を学び、その後、膀胱や前立腺の標本を使った研究を進めていきました。膀胱を専門にしようと考え始めたのはこの頃でした。」

学位を取得した後、縁あってイギリスへ留学。膀胱の平滑筋細胞から細胞内の電位を記録する手法を駆使して、膀胱の収縮弛緩の研究を行った。膀胱平滑筋は尿を貯める時には弛緩し、排尿時には収縮するのだが、同時に消化管のぜん動運動のような律動的な収縮もしている。過活動膀胱は、この律動的な収縮の中に異常な収縮が入ることが原因ではないかと考えられてきており、このような実験手法は病態理解に重要となる。

過活動膀胱の専門家として

帰国後は、大学病院で排尿障害の専門外来を担当しながら、臨床を通じて過活動膀胱の研究を行っているという窪田先生。4人の子どもを生み育てながら、ここまでのキャリアを築き上げてこられたのは、上司や同僚などの理解と支援があったからこそだろう。働きやすい環境を用意してくれた周囲に感謝しつつ、窪田先生は今後も臨床と研究の両方に携わり続けたいと考えている。

「以前は、目の前の患者さんへの対応に精一杯で、限られた薬を使って何とか症状を和らげる…という視点しか持てませんでした。しかし基礎研究を経験したことで疾患に関する理解も深まり、様々な観点から治療に取り組めるようになりました。今後は臨床研究を通じて、診断のための新たな技術開発に貢献できたらと考えています。」


窪田 泰江
名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野 講師
1996年、名古屋市立大学卒業。同大学病院泌尿器科に入局後、市民病院などでの勤務を経て、2000年より研究を始める。2003年にはオックスフォード大学薬理学教室に留学し、2004年に帰国。2010年より現職。2004年日本泌尿器科学会総会賞受賞、2012年度日本医師会医学研究奨励賞受賞。日本泌尿器科学会指導医。
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