EPISODE #02 創傷治療(前編)
新須磨病院

糖尿病足病変で足を切断しても、歩けるようになりたい

糖尿病の合併症として、足の潰瘍や壊疽(足病変)を起こす患者さんが増えている。特に末梢神経障害や網膜症を併発すると、痛みの感覚が低下し、視力も下がるので、症状が悪化するまで潰瘍や壊疽に気がつかない患者さんも多い。足病変が進行した場合、足の切断も免れない。足の切断は、QOLが低下するのみならず、寝たきりになれば潰瘍や壊疽の再発のリスクは高くなり、運動量が減るので糖尿病も更に進行するなど、生命予後は低下する。

足を切断しても、歩けるようにするためにはどうすればいいだろうか?



問題と解決策

▶まずは足病変の適切な治療が必要だ

血流が悪くなることで潰瘍や壊疽を起こすので、血管外科によるバイパス術や形成外科による再建術を適切に組み合わせる必要がある。欧米にはPodiatry(足病医)という、診断から治療まで行う足病変専門の国家資格があるが、日本ではその分野はないため、診療科を横断した協働が重要となる。


PLAN
▷血管外科医と形成外科医が協働できる診療体制をつくる
▷歩行をゴールにした治療方針を立て、それを共有する
こんなチームで取り組む

血管外科医1名と形成外科医3名、計4名の医師が、3つの外来診察室を交互に行き来しながら治療・処置を行っている。

▶適切な装具を提供することで歩行を可能にし、再発を防ごう

足の一部分に負荷がかかるような装具では、その部分の血流が低下し、再発してしまう。そのため、足専門の装具士がそれぞれの患者さんの足の切断や形状に合わせて装具を製作し、歩行可能にすることで、再発を防ぐ必要がある。また外は靴を履き、家の中では靴を脱ぐといった日本の住環境に合わせた工夫も必要となる。


PLAN
▷チームに足専門の義肢装具士を入れる
▷患者さんに合った装具をオーダーメイドで製作する
▷日本の住環境に合った工夫をする
こんなチームで取り組む

装具士の山口さんは、義肢・装具製造販売を手がける京都の会社の社員。様々な病院に出張し、患者さんの足に合わせた装具の製作を手がけるスペシャリストだ。

▶再発防止のための継続的なフットケアをしよう

看護師が、自宅でのケアの方法や気をつけるべき点などを患者さんに伝えることで、足病変の再発を防ぐことができる。


PLAN
▷フットケアの指導ができる看護師をチームに入れる
こんなチームで取り組む

短い外来診療時間の中で、患者さんがどういう生活をしているかを知り、適切なアドバイスをすることが求められる看護師。ちょっとした会話が情報源となる。

チームメンバー

EPISODE #02 創傷治療(後編)
新須磨病院

診療科を超えた協働

新須磨病院に、糖尿病による足病変に注力した創傷治療の専門外来ができたのは2003年1月。北野先生が、米国における足病治療を参考にして立ち上げた。

「欧米には足病医という、足専門の医師がいます。しかし日本にはそのような医師はいないので、様々な診療科が連携して治療に当たらねばなりません。このような多角的な視点が求められる治療は、医師だけでできることではなく、フットケアのできる看護師、装具を作ることのできる義肢装具士などが協力して、チームとして動く必要があるのです。」(北野先生)

足病変は動脈硬化で血流が悪くなった組織が潰瘍や壊疽を起こすことで生じる。このため治療には、まず血管外科医がバイパス術などの血管治療を行い、血流をよくする必要がある。そして、形成外科医が病変部位の切断や再建の手術を行う。血管外科医、または形成外科医しかいない病院だとこれらの手術は別々に行われるため、血管治療から切断・再建に移行する間に潰瘍や壊疽が悪化してしまうこともある。そこで、新須磨病院では血管外科医1名と形成外科医3名が協働して治療を行っている。普段から協働する体制が整っているため、この血管治療と切断・再建を1回の手術で同時に行うことも可能だ。

また、治療にあたっては、歩行可能なように切断部位を工夫し、独力で歩行できることをゴールにしている。

「歩けずに寝たきりになってしまうと、糖尿病も悪化してしまうので、歩ける方がはるかに生命予後がいいんです。だから、歩けるようにするという目標をみんなで共有しながら、診療に当たっています。この分野は全てを網羅する技術をもった人がいないからこそ、患者さんが歩くという最後の最後まで見届けたい意欲のある人が、リーダーとしてチームを率いていく必要があると思います。」(北野先生)

オーダーメイドで装具を製作

切断後の足病変の再発を防ぐためには、適切な装具の提供が不可欠だ。なぜなら、血流が悪くなっているところに負荷がかかるような装具では、その部分の血流がさらに低下し、再発のリスクが高まるからだ。そこで、足専門の装具士が、切断部位やその形状に合わせた装具やインソールをオーダーメイドで製作している。

「欧米では家の中でも靴を履くので、靴だけで保護すれば十分なのですが、日本では、部屋の中では靴を脱ぐという生活スタイルですから、それも考慮しなければなりません。せっかく靴を作っても脱いだ時に保護できなければ意味がないので、部屋用の靴を作り、それにオーバーシューズをかぶせる形で外用にも対応できるような作り方をしています。また、患者さんによって家の中での生活スタイルも変わりますから、そのあたりもヒアリングして、適切な靴を提供するようにしています。」(山口さん)

(写真)装具を製作するときには、まず患者さんの足に合わせた型を取る。

継続的なフットケア指導

さらに再発防止のためには、自宅に帰ってからの継続的なフットケアも重要だ。普段から足をよく観察し、潰瘍や壊疽の原因になりやすい傷や火傷をつくらないように気をつける必要がある。そこで、チームにフットケア指導のできる看護師を入れることで、患者さんが自宅に帰ったあとも適切なケアができるように指導している。

「1日でたくさんの患者さんを診るので一人ひとりの患者さんの話を聞く時間はかなり短いのですが、そのなかで患者さんがどんな生活をしているのか情報収集しつつ、無理のない範囲で『これだけはやってほしい』ということを在宅ケア指示書として紙に書いて渡すようにしています。また患者さんの理解力に応じて、フットケアに関するパンフレットなどをお渡しすることもあります。」(山本さん)


Team Profile
2003年1月に設立された新須磨病院創傷治療センターは、毎週1回の専門外来を行っており、午前中だけで約60名の患者を診療している。関西圏をはじめ、中国・四国地方など遠方からの患者さんも多い。

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