多職種連携の現在と未来
日本医師会副会長・今村 聡先生に聴く
――ここまでの4事例を見ると、それぞれが全然違う形で連携していると感じます。結局チーム医療には、これといった理想のあり方はないのでしょうか?
今村(以下、今):地域の状況や、どんな医療資源があるかということによって、チーム医療の在り方が変わるのは当然だと思います。奈義町の事例は、限られたリソースの中でそれぞれの職種が補い合いながら、医療・介護のサービスを充実させようと努力した結果でしょう。これに対して、例えば私が診療している東京都板橋区は医療資源が豊富なところです。区の中に大学病院が2つあり、大規模な病院もいくつもある。こういう環境では、力を合わせて住民のニーズに応えなければならないという意識になりにくいので、奈義町のように町全体で取り組むという形は難しいのかもしれません。しかしもちろん、都市部でも在宅医療のニーズはあり、一人ひとりの患者さんの問題を解決しようと思うと、様々な連携が必要なことは言うまでもありません。
だから、どれが理想型、どれが正解ということはないと思います。さらに言えば、連携すること自体を目的にせず、今の患者さんの状況や地域の状況を踏まえて、その問題を解決するために最適なアプローチを考えればいいんです。
ちなみに最近「患者さんの視点に立った医療」が大切だと言われますが、これは多職種連携を進める上でも重要な考え方です。なぜなら「医療者の視点」で医療を提供すると、「自分のやれること」「自分の得意なこと」に軸足が置かれます。けれど、患者さんが何を求めているか、何を必要としているかという観点でみると、「患者さんが求めていることを提供できる人」を探そうという発想になります。「私の専門家としてのプライド」から離れて、「患者さんが求めること」「患者さんに必要なこと」をチームで見るようにすれば、いい連携ができるのではないかと思います。
――今後、医師がリーダーシップをとってチーム医療を進めていかなければならないのはなぜですか?
今:医療の場合、患者さんの治療の全体像を設計するのは医師である場合がほとんどです。つまり医師は、様々な職種・役割の人たちをコーディネートするのに適した立場なのです。ただ、ときには看護師やケアマネージャーが音頭を取ることもあるかもしれません。時と場合に応じて柔軟にチームを組み、問題解決に当たれるようなコミュニケーション能力や、信頼関係を構築するスキルを若いうちから身につけることも、これからの医師には求められると思います。
私たちが学生の頃は、チーム医療や多職種連携に関する授業や勉強会など、とても考えられるものではありませんでした。しかし最近は、医学部でも他の職種の学生との合同演習など、様々な接点を作る工夫が始まっています。こういう機会に恵まれたみなさんは、本当にうらやましいです。学生時代から他の職種を目指す学生と交流していることは、きっと医師になってからの連携の支えになっていくのではないでしょうか。
――チームでうまくやっていくためには、どんなことに気をつければいいですか?
今:やはり、それぞれの専門職を理解すること、そしてそれ以前に、チームで働く仲間と、一人の人間として信頼関係を築けることではないでしょうか。それは、患者さんとの関係作りと同じだと思います。患者さんがどんな人かを理解し、生活背景を知った上で関わっていかないと、医師・患者間の信頼は築けない。同じようにスタッフとの関係も、相手をちゃんと理解して、尊重することから始まるように思います。
医学部にいると、医学生以外との交流が少ないので、働き始めた時に他の専門職はもちろん、医師以外の人のことがよくわからない…ということになりかねません。それでは、チームでの関係はもちろん、患者さんとの関係もうまく築けないでしょう。やはり、学生時代から視野を広く持ち、他の医療・介護専門職をはじめ、様々な人や社会と関わっておくことが大切なんです。当たり前のようですが、意識しないと世界が狭くなってしまう業界なので、意識して「他の分野」と関わって欲しいと思います。このドクタラーゼに、「チーム医療のパートナー」という他職種の紹介記事を連載しているのも、「同世代のリアリティー」という連載で、医療以外の分野の同世代の価値観や生き様を紹介しているのも、医学生のみなさんに様々な人と信頼関係を築いていってほしいからなのです。
――多職種連携・チーム医療の中で、日本医師会はどういう役割を担っていくのでしょう?
今:日本医師会は、医師個人が所属する学術専門団体ですが、同時に日本の医療全体を見渡し、その方向付けを考える責務も負っています。医療をはじめ、国民の健康で文化的な明るい生活を、医師だけで支えることは到底できません。ですから、私たちは、様々な医療職・介護職が連携して、国民の健康な生活を支えていけるように取り組む必要があると思っています。日本医師会がリーダーシップを発揮して、様々な職種が共にチーム医療や多職種連携について考える場を設けていければと思います。
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- 医師への軌跡:窪田 泰江先生
- Information:January, 2014
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