医学生×CA 同世代のリアリティー

接客業(CA)編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。今回は「接客業」をテーマに、キャビンアテンダント3名(社会人A・B・C)と、医学生3名(医学生D・E・F)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは「接客業」

接客業の花形といえば、「キャビンアテンダント(CA)」。その華やかそうな世界の裏には、サービス業としての難しさもあるようです。人と向き合う職業という意味では、医師にも通じるものがあるのではないでしょうか。

意外と男らしい?救難訓練

医D:みなさん入社して1年経ったところということですが、これまでどんな業務をしてきたんですか?

社A:今までは国内線の乗務員をやっていました。今は国際線の訓練中で、来週から国際線に乗ります。

社B:通常、この業界では入社したらまず国内線に乗ることが多いです。2~3年間で国内線のファーストクラスまで経験して、それから国際線に異動っていう流れが普通なんですが、私たちは3人とも他の業界からの転職組で、社会人経験があるので、少し訓練などをスキップしています。

医E:具体的にはどんな訓練をしているんですか?

社C:まず、入社したときに全員が受ける2か月間の訓練があります。そこでは救難訓練といって、もしものときに乗務員としてどのように行動するかを必ず学びます。例えば、飛行機には非常ドアがありますよね。避難しなければならないときはそこから滑り台が出るようになっているんですが、お客様をドアまでどうやって安全に誘導するかなどを学びます。

社A:他にも、海に落ちたときのためのボートの作り方なども学びますよ。

社B:この救難訓練の2週間は、みんなつなぎを着てよく動くので、体育会系って感じですね。

医F:意外に男っぽい(笑)。

社C:もちろん接客の訓練もしていますよ。今受けている国内線から国際線への移行訓練では、お客様に提供するお酒や食事の勉強もしなければならないですし、英語の訓練もあります。訓練の内容はかなり幅広いと思います。

女性社会での上下関係の厳しさ

医F:国内のCAさんって、女性がほとんどですよね。女性ならではの、求められることなどはありますか?

社A:お客様から常に見られている職業なので、身だしなみにはすごく気を遣いますね。一度、お客様から「凄く爪を綺麗にしてるんですね」って褒められたことがあります。

医D:そんなとこまで見られるんですか!

社B:いつどこをお客様に見られているかわかりませんからね(笑)。あと、先輩・後輩関係はかなり厳しいですね。気配りができているかどうかについてはかなり先輩の目が厳しくて、できていないと怒られます。

社A:そうそう、上下関係がはっきりしているから、「これは絶対に下がやらなきゃいけない」っていうのが結構あります。いろんなところで、「先輩、どうぞ」って譲るのが基本っていうか。例えば、エレベーターのドアを抑えるのに、後輩たちの行列ができたりしますよ(笑)。

医F:すごい光景ですね(笑)。

社C:フライトのときは、毎回違う先輩と組んで一緒に乗るので、搭乗前と搭乗後の挨拶は絶対欠かせないです。

医E:武道家みたいですね。

社A:いろいろな職業のなかでも、上下関係は厳しい方だと思います。

学歴などは問われない実力主義の世界

医F:上下関係といえば、医師も昔は医局っていう制度があって、教授に気に入ってもらえるかどうかが人事に影響していたと聞きます。出身大学によって出世できるかどうかが変わったり。最近はなくなってきてるみたいですけどね。

社B:そういう意味では、私たちは実力主義ではあります。先輩に気に入られる必要はあるけど、学歴で見られることはないですね。

医D:仕事ができるかどうかを判断する基準はどこにあるんですか?

社A:先輩曰く、一回一緒に飛べばわかるらしいです。やる気があるかないか、仕事ができるかできないか。私たちはまだ新人なのでよくわからないですけど…。

医F:医師は、例えば外科なら手術成績の数値など、ある程度客観的に評価できる軸がある気がするんですけど、CAさんみたいに完全なサービス業だと、お客さんからもフィードバックが得にくいですよね。「○○さんがよかった」って名前を書いてもらう機会があるわけでもないでしょうし。

社B:一応、アンケートのようなものは配布しています。ランダムに配って、よかったかどうか書いてもらう。指名ではないですが、どの機体のどこに誰が乗っていたのかはわかるので、いい点数をもらえば評価にはつながりますね。

医F:そういうアンケートもあるんですね。知らなかった。

社C:でも、CAって結局、新人でもベテランでも仕事の内容は同じで、責任の重さが違うだけなんです。接客のコツとかはもちろんあるけど、特別なスキルが必要なわけじゃないので、そこがお医者さんと違うところかなと思います。私たちCAは、たとえ評価が高くなっても、平等にお客様に対応して、平等に料理とお酒を提供して、平等にクレーム対応をする。だからこそ、続けていくには「この仕事が好きだ」っていうモチベーションが必要な仕事だなあと思いますね。

医E:なるほど~。

同世代のリアリティ

医学生×CA 同世代のリアリティー

接客業(CA)編-(後編)

CAも一時の命を預かる仕事

社B:ちなみに、お医者様になるとドクターコールがありますので、皆様よろしくお願いします。

医F:「お客様の中に、お医者様はいらっしゃいますか?」って言うアレですね。今までやったことあります?

社C:私はドクターコールまではいかなかったですが、お客様の酸素吸入まではやったことがあります。白目をむいて倒れていらっしゃったので、本当にびっくりしました。

社B:こういう症状だったら初期対応でこれをやる、ここまでいったらドクターコールをする、お医者様がいらっしゃったらお願いをする…といった流れが決まっていて、初期対応は私たちも習いました。飛行機の中には一通りの機材が積んであります。AEDも使ったことがあります。

社A:一旦空を飛んでしまうとしばらく降りられないから、その間に起こったことは私たちが対応しなければいけないという重みはありますね。

医E:そういう意味では、全然関係ない職種同士に見えて、同じように命を預かる仕事だなって感じがしますね。

キーワードは信頼関係

社C:私たちも一時的に人の命を預かってはいますけど、お医者さんと大きく違うのは、私たちは常に一期一会だということですかね。一回乗って、降りたら終わり。お客様が降りた先のことで責任を持つということはほとんどないんです。

医D:確かに、担当があるかないかは大きく違いますね。医師も診療科や働き方によっては一期一会の場合もあるけど、それでも責任は持たなきゃいけない気がする。

社A:患者さんだったら、「この人合わないな」って思っても、それなりに長く付き合わなきゃいけないですよね。でも私たちは、どんなに「このお客さん嫌だな」と思っても、長くて24時間だけ一緒にいればいいので、そう思えば我慢できます(笑)。

医E:けど逆に、短い時間でどれだけいい印象を与えるかって難しいですよね。僕たちもこれから医師になったら、例えば外来の診察の10~15分ぐらいで患者さんに「この医者なら大丈夫だ」って思ってもらわなきゃいけない。

社A:そう、だから、私たちの業界もファーストインプレッションが重要だと言われています。特に国内線は長くても2時間くらいしかないから、そのなかでお客様にいいCAだなって思ってもらえる印象作りが必要なんですよね。身だしなみや笑顔って、そういう意味でとても大事だなと思います。

社C:私たちとお客様、医師と患者さん、どちらも、知り合おうと思ってないのに知り合って、言葉を交わしたり、サービスを提供したりする関係になるわけですよね。そういう関係性の中で、いかにお互いに気持ちよく過ごせるかに気を配らなきゃいけないってところは、似てるなあと思いますね。

医F:確かに。僕らも患者さんに対して医療というサービスを提供していると考えると、相手に対するおもてなしの心は必要ですね。

社B:お医者さんの目的は患者さんの病気を治すことだし、私たちも本来はお客様を輸送することが目的なんですけど、人と人との関係を大事にしながらやっていかなきゃいけないっていうところに難しさがあるなと思います。

医E:そう。だから、僕はキーワードは「信頼関係」なんじゃないかなと思っています。

社C:まさに!

医F:医師もCAも、閉鎖された空間とか特殊な状況で、いかに信頼関係が築けるかが肝になってくる職業ってことですね。

社A:確かにそうですね~。たとえ理不尽なことを言われても「もういいよ!」って突っぱねられない関係性だからこそ、相手への気遣いや、思いやりが大事なんじゃないかなと、今日話をしてみて思いました。

医D:僕らも改めて、接客業と医師の仕事の近さを感じることができました。今日はどうもありがとうございました。




No.8