常にやりたいことを見据え、
目的に合った環境で技術を身につけてきた
【救急科】土谷 飛鳥医師
(国立病院機構水戸医療センター
救命救急センター 副センター長)-(前編)
救急科から外科へ
――救急を選んだきっかけを教えてください。
土谷(以下、土):卒業後に僕が入った研修病院は、内科系・外科系・総合診療系の3つの研修コースがあり、総合診療系の中にさらに総合内科・総合外科があるという仕組みでした。僕はある程度ジェネラルに診られるようになりたいなと思っていたのと、救急のバタバタした雰囲気が好きだったので、総合外科、いわゆる救急コースを選びました。けれど、その当時はずっと救急医として働こうと思っていたわけではありませんでした。
3年間救急科に所属して当直を繰り返す毎日を送り、ある程度救急車の受け入れができるようになったころ、「何か職人技を身につけたいな」と感じるようになりました。そこで、そのとき一番興味があった外科に転向することにしたんです。
――このタイミングで、今の病院に来られたんですね。
土:はい。当時この病院は、昔から救急をやっている医師には有名な病院でした。というのも、ここは伝統的に外科が救命センターも麻酔科も管理しているという構造だったんです。この病院ならば、外科の手技も覚えることができるし、救急も麻酔も経験できる。そう思ってここに決めました。3年間、みっちり外科の手技を叩き込みましたね。
外科を3年もやっていれば、オペが必要な症例はなんとか対応できるようになります。ならば今度は、オペをしなくてもいい症例を治せるようになりたいなと思うようになりました。そこで次に身につけたいと思ったのがIVRの技術でした。当時この病院には常勤の放射線科医がおらず、非常勤の先生が来ている時にIVRをお願いするしかなかったので、「それならば、自分がIVRをできるようになればいいのでは?」と思ったんです。
常にやりたいことを見据え、
目的に合った環境で技術を身につけてきた
【救急科】土谷 飛鳥医師
(国立病院機構水戸医療センター
救命救急センター 副センター長)-(後編)
常に新たな目的に向かって
――新しい技術を得るために一から学び直したんですね。7年目で他の診療科で修行することに抵抗はなかったんですか?
土:全くありませんでした。その分野では自分は何もできないわけですし、年齢や学年がどうであれ、技術を持っている人の方が偉いと感じていたので、気にならなかったですね。ちなみにIVRの専門医資格を取るためには200症例を経験しなければならないのですが、私は2年間で800もの症例を経験させてもらいました。僕が「IVRの技術を獲得したい」という明確な目的を持っていることを知り、上司の先生がどんどん僕のところに症例を集めてくださったんです。これだけの症例を経験できるというのは、かなりレアケースだと思いますし、ありがたく思っています。
――常に今の目的を追求し、それに適した環境に身を置いてきたから、そのようなステップアップができたんですね。
土:そうですね。そしてIVRの勉強をし始めたころから、この後は救急に戻ろうと決めていました。ではどこで救急をやるか。外科とIVRという2つの武器は確かに身につけたけれど、この2つは当然2~3年で完結するものではありません。せっかく身につけた技術を成熟させなければ意味がない。この2つの技術を数多く自由に発揮できるところに行きたいと思いました。そうして辿り着いた先が結果的に今の病院でした。
――現在も、救命救急センターに属しながらオペやIVRを積極的に行っているのですね。
土:はい。心臓と脳に関するものは専門の先生にお任せしていますが、それ以外の、例えば肝がんの血管内塞栓や、喀血の止血、胸腹部の外傷などは僕が救急で最後まで診ています。IVRの専門医として、他の診療科に呼ばれたりもします。
――2010年からはドクターヘリが運行を開始していますね。
土:たまたま僕が戻ってきた年からドクターヘリの運行が始まることになっており、院長に「ドクターヘリの立ち上げに力を貸してくれないか」と声をかけていただきました。ヘリで必要とされる技術を学ぶため、研修も受けました。リーダーシップやマネジメントに関しても、たくさん本を読んで勉強しましたね。
見える世界を広げたい
――今後のキャリアについてどんなビジョンがありますか?
土:これからさらに指導的な立場になるでしょうから、マネジメントの知識や、論文を書くための医療統計の知識が必要になってくるなと思っています。またMBA(経営管理学修士)やMPH(公衆衛生学修士)の資格取得も目標にしています。そういう勉強をしていけば、見える世界もどんどん広がってくるのではないかと考えています。
――最後に、学生に対するメッセージをお願いします。
土:あれもやりたい、これもやりたいと思うことはいいと思います。けれど、それらを全部やれる場所に行けばいいかというと、そうではない。救急なら救急、外科なら外科と優先順位をつけて、その世界に身を置いて徹底的に技術を身につけないと、患者さんのためにもならないと僕は感じています。自分が今一番何をやりたいかをしっかり考えて、その目的に合った環境にどっぷり浸かることが大事なのではないでしょうか。
2002年 三重大学医学部卒業
2014年1月現在 国立病院機構水戸医療センター 救急救命センター 副センター長
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