医学生×教師 同世代のリアリティー

人の人生に関わる 編-(前編)

医学部にいると、なかなか同世代の他分野の人たちとの交流が持てないと言われます。そこでこのコーナーでは、医学生が別の世界で生きる同世代の「リアリティー」を探ります。今回は「人の人生に関わる」をテーマに、教師3名(社会人A・B・C)と、医学生3名(医学生D・E・F)の6名で座談会を行いました。

今回のテーマは「人の人生に関わる」

教師と医師。どちらも「先生」と呼ばれる二つの職業は、教師は生徒を、医師は患者さんを、その人にとって良い方向に導く仕事という点でも似ています。では、教師はどのように生徒に接し、生徒を導いているのでしょうか。

問一、授業のコツは何か?

医D:みなさんは今年から初めて担任になられたそうですね。

社A:はい。僕らは3人とも同じ私立の中高一貫校に勤めていて、みんな高校生のクラスの担任をしています。でも中学生の授業も担当していますよ。

医E:授業のやり方は、自分で考えるんですか?

社A:指導要領はありますが、自分で工夫して授業づくりをしています。僕は国語の教師なんですが、昔漢文の授業を担当することになったとき、漢文は自分の専門ではなかったので、夜中の1時まで学校に残って勉強していました。漢文の文法と英語の文法とを比較して、どこが違うのかなどを分析し、自分の教材を1冊作りました。

医D:すごい。医師も自分の専門についてはずっと勉強するんです。教師もそうなんですね。

社B:はい。生徒指導をするにも進路指導をするにも、授業がしっかりしていないと生徒に信頼してもらえないので、日々勉強していますね。

医F:授業によって生徒の信頼を得るためには、どんなことを心がけていますか?

社C:できるだけわかりやすいように伝えることですね。僕は英語を担当しているのですが、単語や文章の意味が具体的にイメージできるように、絵やストーリーを使って説明するようにしています。勉強が苦手な子でも、映画のストーリーはよく覚えていたりするものです。なので、説明をするときには、絵やストーリーを間に挟んだりしながら、順序立てて伝えるようにしています。

医D:私も、体の模型などを使って体の構造がどうなっているのかを示した上で、病状やその原因について説明した方が、患者さんからも納得してもらいやすいと聞いたことがあります。相手の目線に立って、相手がわかりやすいように説明することが大事なんですね。

医E:でも、なるべくわかりやすいように説明しようとしても、「何がわからないのかわからない」という子もいるんじゃないですか?

社B:そういう子には、気合とノリで接しています(笑)。なかなか成績が上がらない子って「わからない」という意識がすごく強くて、それがバリアになってしまっていることが多いんです。だから、まずは「大したことないんだよ」ってことを伝えますね。そうやってバリアを解いてあげた上で説明すれば、意外とスムーズに飲み込んでくれる子もたくさんいますよ。

社A:とはいえ、どんなにわかりやすく説明しても、教えていることがそもそも間違っていたり、言っていることがブレていたりすると、生徒は不信感を抱いてしまうので気をつけなければならないですね。正しいことをブレずにしっかりと伝えることと、わかりやすく説明することの両方が揃ってはじめて、生徒から信頼を得られると感じています。

医F:なるほど。私も大学の先生から、将来医師になったら、わからないことがあってもその場ではわからないと悟らせず、後で勉強しなさいと言われたことがあります。相手に不信感を抱かせてはいけないのは、教師も医師も同じですね。

社A:確かに似ていますね。

問二、教師もチームで働く?

医D:中学や高校の先生をしていると、思春期独特のデリケートな問題もありそうですよね。難しくないんですか?

社B:そうですね、難しい部分も確かにあります。でも僕は、反抗期の子を構うのは好きですよ(笑)。反抗的な子とは、とにかく時間をかけて向き合い、時には教師と生徒という関係をきっちり意識させながら、信頼関係を築きます。きちんと向きあえば彼らは心を開いてくれますし、いきがっていた子が卒業時にどうなるのかを見届けられると思うと楽しみですね。

医E:逆に、マジメな子の指導はどうしていますか?

社A:僕はとにかく話を引き出しますね。まずは話しやすい環境を作って、とにかく「君の味方だ」「君の不利には絶対にしない」ということを約束します。それから、「で、今どうなの?」と話を始めます。

社C:あとは適度な距離感も大事ですね。ある不登校の生徒と話したとき、いろいろ質問しすぎてしまったのか、そのときは何も話してくれなかったのですが、しばらく時間を置いてからまた話しかけてみたら、今度は心を開いてくれた…ということもありました。そういう距離感も考えています。

医D:思春期の子たちを相手にする仕事ならではのテクニックですね。

社B:中学生・高校生どちらでもそうなんですが、自分ばかりが構い過ぎてもダメなんですよね。なので、僕は自分が相談に乗りにくいことやわからないことは、信頼している他の先生に任せます。最終的には生徒が抱えている問題を解決することが最優先なんです。だから自分がアドバイスできるところはアドバイスしますが、わからないことだった場合は、自分の人脈の中からわかる人を紹介して、後でその先生から内容を聞くようにしています。教師の仕事はスタンドプレイに思われがちですが、実は役割分担やチームワークも大事なんですよ。

社C:生徒指導は、担任が一人で背負い込むんじゃなくて、チームでやっていくものだと思うんです。何かあったときには、愚痴を言ったり相談できる相手がいることが大事。自分で何でもやりすぎることによって、結局生徒にとってマイナスになっては意味がないですからね。お医者さん同士でもそうじゃないですか?

医E:そうですね。大学でも、困ったときには助けてもらえるような人脈作りが大事だよって教わりました。

社B:自分には対応できないと感じた時は素直にそれを認めて、抱え込むのではなく人に頼むのが大事なんでしょうね。

 

同世代のリアリティ

医学生×教師 同世代のリアリティー

人の人生に関わる 編-(後編)

問三、教師の特性を述べよ。

医E:話は変わりますが、教師を目指したきっかけは何でしたか?

社C:僕は教師になる前に一度新聞の営業の仕事をしていたのですが、合わずに辞めてしまって。どうしようかと考えていたとき、学生時代に教員免許を取っていたので、定時制の高校で教師として2年間勤めてみたんです。そこで「これが自分の仕事だ」と思いましたね。自分の性格に合っている気がしました。

医D:新聞の営業と教師は、どう違ったんですか?

社C:簡単に言えば、お金をみるか人をみるかですね。営業職などの場合、ノルマがあるので、どうしても利益や数字が重要視されます。でも教師の場合、そういうお金の部分ではなく、人の内面をみて仕事ができる。もちろんどちらの働き方が正しいというわけではありせんが、僕には教師の方が合っているなと思いましたね。

社B:卒業した生徒がたまに学校に遊びに来たりすると、教師としては嬉しいものです。それも人と付き合う仕事の役得かもしれません。

問四、責任とやりがいを述べよ。

医F:例えば外科医でいうと、手術数や、執刀できる手術のレベルでその医師をある程度客観的に評価できると思うんですが、教師の場合、いい教師かどうかはどのように評価されるものなんですか?

社C:生徒のアンケートを取りますね。授業について、いくつかの項目に分かれていて、最終的にランキングが出ます。教師の世界では、それが当たり前のことになりつつあります。

医F:病院でも患者さんへのアンケートはありますね。自分のランキングが出るというのはやはり嫌なものですか?

社A:アンケートの結果イコール教師の質というわけではないと思ってはいますが、プレッシャーはあります。各項目が全部1で「やめろ」って書かれているという悪夢を見たこともありましたよ。

社B:教師は生徒の人生を預かっているわけですし、自分の教育が間違っているんじゃないかという怖さはやっぱりありますね。そういうものを背負いすぎて、心を病んでしまう教師も中にはいます。

社C:でも、人の人生をみることができるのは、楽しみでもあるんですよ。様々な人の人生が変わる瞬間をみることができるって、感動しませんか? 僕が教師を目指したのは、そういう瞬間をみたいからなんです。医師も、自身の働きかけによって人が変化する瞬間をみることができる仕事ですよね。

医E:はい。以前、医学部の授業の中で、延命治療をするかどうかをご家族とお話しする場に同席したことがありました。そこでは結局延命治療はしないという話になったのですが、そのときに、自分の価値観ではなくて、患者さんが望む人生を送らせてあげられるような医師になりたいと思いました。人の人生に関わるというのは重圧でもありますが、それでもそこに関わることができるのは、やりがいでもあるかもしれませんね。

社A:医師と教師はやっぱり似てますね。

医D:そうですね。今日は教師の方々とお話をして自分たちの仕事を再認識できました。どうもありがとうございました!




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