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各論的事項 №13
「非医師の医療行為とタスクシフティング」

藤川 謙二(日本医師会常任理事)

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 人がこの世に生を享け、その人生を全うするまでの間に、病気を患ったり外傷を負ったりしない人は稀といえます。この病気・外傷の回復あるいは増悪を阻止するための行為は医療と呼ばれます。この医療行為においては診断と治療が行われますが、その際に人の身体を傷つけるなど非常に侵襲性の強い行為が伴うことがあります。しかし、たとえ医療のためとはいえ、他者の身体を傷つける行為を行う以上、誰もが医療を行ってよいとは言えないのは自明のことです。そこで、法体系が整備されている近代国家では法により、医療行為を業として行える者を『医師』と定め、その資格を与えることにより、医療行為を行える者を限定しています。わが国にあっては、それは医師法がそれに当たります。

 医師法の趣旨目的には『医師は、高度な専門知識及び技能を有して、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するという公共的な任務を有している。本法は、このように国民保健上極めて重要な役割を担う医師について、その資格を高い水準で厳格に定め、同時にその業務に関し国民保健の見地から必要な規制を行うことを主要な目的としている。』と記されています。医療のためとはいえ、非常に侵襲性の高い行為を他者に行うには高度な専門知識・技能はもとより、『医師』の資格が高い水準に保たれ、必要な規制を受けるのは当然のことであり、それがために『医師』は国民に信頼され得るのです。そして、医師法第十七条に『医師でなければ、医業をしてはならない。』と規定され、第十八条で『医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。』となっています。

 しかしながら、医師が医療を行うに当たって、医師一人で医療を完結できるものではなく、看護職員をはじめとして、多数の医療関係職種と協働・連携して患者の治療に当たっています。基本的には医師と医師をサポートする医療関係職種とのチーム医療が治療の原則といえるのです。そして、医師以外の医療職種にも医療においてそれぞれ重要な役割があり、当然のこととして関係法令が規定され、資格が付与されています。医師とこれら医療職種はそれぞれの役割を十分に認識し、誇りを持って業務に当たっているからこそ相互の信頼が生まれ、完成されたチーム医療が遂行できるのです。

 確かに、医師法で医療行為は医師のみが行える行為であると規定されていますが、当然例外はあります。それは、災害や緊急の際における医師不在などのケースがそれに当たると考えられます。そのような場合は、緊急的な対応を行わなければならないわけですから、医師以外の医療関係職種などにタスクシフィティングすることは当然考え得ることです。しかし、平常時においては話が異なります。WHOが医療人材不足を部分的に解決する手段としてタスクシフィティングを提唱しましたが、世界医師会(WMA)は安易に適用するべきではないとし、アジア大洋州医師会連合(CMAAO)も『医療人員不足の最終的な解決策としないこと』『政府はタスクシフィティングを医療費削減の方法と見なさないこと』等の声明を発表しております。わが国において、医師の偏在と不足が社会問題化して久しいですが、この問題の根本的な解決策を求めることなしに、CMAAOが声明で懸念しているような動きが幾つかの医療関係職種の業務拡大の試みとなって表れています。このような医師の偏在と不足に乗じたともいえる医療関係職種による医師の業務範囲への侵食行為は、医師法を踏みにじるだけではなく、法治国家の根幹を揺るがす問題ともいえます。そして、自己の業務範囲の拡大に奔走する利己的な行為は医療に関わる者としてはあるまじき行為といえます。医師には前述の医師法の趣旨目的にある高度な専門知識・技能に加えて、高い倫理・道徳が求められます。それは、患者の安心・安全を最優先して医療行為をしなければならないからです。患者の医療安全を最優先するからこそ、医師は国民に信頼されるのです。