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各論的事項 №15
「卵子提供か、卵子再生か~生殖補助医療と倫理、最近の話題」

島 次郎(東京財団研究員)

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 2013年1月、不妊の当事者家族と産科医らが設立した民間団体が、卵子を提供するボランティアを募集し、生殖補助医療を受ける人に仲介する事業を始めると発表した。日本国内で第三者からの卵子提供による生殖補助医療が進まない状況に一石を投じる試みで、賛否両論の反応を引き起こしている。

 他方、2010年4月から、ヒトのES 細胞やiPS細胞からの生殖細胞(精子、卵子)の作成が日本でも解禁され、慶応大学などで研究が進められている。また2013年1月には京都大学で、ヒトのiPS細胞から、生殖腺(精巣、卵巣)組織再生に通じる中間中胚葉の分化誘導に成功したとの研究成果も発表された。現状ではiPS細胞などから成熟した生殖細胞を in vitroで作成することは難しいが、前駆細胞への分化誘導は現実味を帯びており、これを同じく分化誘導した生殖腺組織へ移植すれば、成熟した生殖細胞を得ることが可能になるかもしれない。そうすれば、不妊の男女に、自前で精子、卵子を「再生」させ、生殖補助医療に用いる道が開ける。2012年度ノーベル医学生理学賞を受賞したiPS細胞研究と、2010年度同賞を受賞した体外受精臨床が、結びつく可能性が見えてきたのである。

 患者の皮膚などからつくれるiPS細胞は、生命の萌芽を犠牲にするES細胞に比べ、倫理的な問題がないと歓迎されている。だが、そこから生殖細胞をつくることは、倫理的に問題だとされている。実験的に、人工的につくりだした精子、卵子から、新たなヒトを生み出すのは、生物学的・医学的なリスクだけでなく、人の尊厳を損なう恐れもあると受け止められているからだろう。

 しかし、第三者からの精子や卵子の提供を伴う生殖補助医療も、売買の横行や家族関係の混乱などを招く恐れがあって倫理的に問題がある。それにどう対応するべきか、日本では社会の合意がつくれず、推進も禁止もできないでいる。自前でつくれるならそのほうが倫理的にもよいのではないかという議論もありうる。ただ、誰がどこまでそうした「再生生殖補助医療」を利用してよいかは、難しい課題になる。

 男性の皮膚からつくったiPS細胞で卵子をつくったり、女性のそれから精子をつくって、自らの精子や卵子と受精させるような行為は認められないだろう。しかし乏精子症等で不妊の男性が精子を、卵巣機能不全などで不妊の女性が卵子をつくるのも認められないだろうか。認められないとすればその根拠は何か。真摯な議論が求められるところである。

 欧州では、同性カップルの婚姻と養子取得の容認に続き、生殖補助医療の利用まで認めるかどうかが、目下倫理的・社会的議論の最前線になっている。女性カップルなら精子提供を受ければ子をもうけられるが、男性カップルでは卵子提供と代理懐胎が必要になるのでハードルは高い。iPS細胞からの精子、卵子の再生を同性カップルにも認めれば、第三者提供を受けずに、カップル双方の遺伝子を引き継ぐ子をもうけることができる。

 日本では、生殖補助医療の現場ではすでに事実婚カップルが実質的に容認されているが、同性婚の容認は、まだ議論にすらなっていないのが現状だろう。だから上に述べたことは絵空事のように聞こえるかもしれない。だが、わずか50年前には、体外受精による挙児も架空の夢と受け取られていたことを思うべきである。

 臓器移植の限界を、再生医療によって解決することを目指し、世界中で研究が進められている。そのなかで、不妊治療においても、第三者からの提供を伴う生殖補助医療の問題を、再生医療によって解決しようとすることは認められるだろうか。20年後、30年後を見据えた医の倫理の課題として、検討しておく必要があるだろう。