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各論的事項 №16
「遠隔医療」

日本遠隔医療学会普及委員会

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 2000年代後半以降、情報通信技術と周辺機器類の発達は急速で著しく、これを応用して医師・患者間にある地理的・時間的制約を越える医療が可能となり、医療過疎や偏在による地域的医療格差の解決が期待される。日本遠隔医療学会は、遠隔医療(Telemedicine and Telecare)を「通信技術を活用した健康増進、医療、介護に資する行為」と定義し 、この方面における実践と研究を共有し議論を重ねてきた。実験的な取り組みも多いが、実用段階にある場面に限って述べる。

 遠隔医療は大別すると専門医師が他の医師の診療を支援するDoctor to Doctor (DtoD)と医師が遠隔地の患者を診療するDoctor to Patient (DtoP)に分けられる。DtoDの代表的な例は遠隔放射線画像診断や遠隔術中迅速病理診断であり、DtoPは在宅や介護施設などで療養する患者にテレビ電話などを介して診療するものである。後者は、訪問看護や生体情報のモニタリングと組み合わせて行うこともある。厚生労働省による2011年度の調査では、遠隔放射線画像診断を行う医療機関は2403件、遠隔病理診断を行う医療機関は419件、在宅支援を行う医療機関は560件であった。全医療機関数に対する比を考えれば未だ極めて少ないが、これらを実践する医師がおり、また今後拡大していくことが予想される。そこで遠隔医療の適切な運用について問題を整理する。なお、DtoDとDtoPは医師法との関係、責任の所在において異なる問題を内包するので、以下ではこれらを分けて扱う。

 

 遠隔放射線画像診断や遠隔術中迅速病理診断などのDtoDでは、支援を依頼する医師の側に患者が在り、その患者の画像データなどを遠方の専門医に送信し診断を委託する。専門医の不足を補いながら診断の質的向上を目的とするシステムである。患者を直接診察する依頼医およびその所属長に医療の第一義的な責任がある。依頼を受ける専門医が依頼医と同一医療機関に所属し、このシステムを用いて診断支援をするのであれば、専門医が為したことの責任はその所属長のもとにあるので、何事か問題が生じてもその医療機関として解決することとなる。

 しかし、他の医療機関等の専門医に放射線画像データや病理標本データを送信して診断を依頼する場合、あいまいな運用が為されると解決が困難になる。依頼医側の医療機関は次のような検討を前もって行う必要がある。
(1)継続して安定したシステム運用が可能である
(2)依頼医側、専門医側の双方において患者個人情報の保護が担保されている
(3)診断し、レポートを作成した専門医を特定できる
(4)診断までの時間や日数に期限をつけて運用できる
(5)診断に必要な追加情報が生じたら、適宜に依頼医・専門医間の連絡を確保できる
(6)双方の役割、責任、費用負担など明記した公的文書を交す
(7)定期的に実績と評価を行い、専門医側にフィードバックする機会を設ける努力を怠らない

 これらが満足されれば、誰がシステムの所有者・運用者か、どのような機器構成かは特に問題にしないが、システムには必ず障害があるものとして、依頼医側と専門医側が共同で備える必要がある。また依頼を受ける専門医は、そのシステムを用いた診断に十分な経験を積み、その限界を良く理解し、診断の質向上のための研鑽を怠ってはならない。

 

 遠隔医療のもうひとつのタイプであるDtoPは、主に離島や僻地において訪問診療を補うものとして実用化が進められてきた。TV電話装置を患者宅に設置したり訪問看護師が患者宅に搬入するなどして、医師が遠方から病状を把握し、服薬調整をしたり簡単な処置を患者宅にいる看護師に指導するDoctor to Nurse (DtoN)の形態が一般的である。血圧や酸素飽和度等を測定し、このデータをモニタリングして治療に生かすことも行われている。

 このような診療が医師法に抵触するとの疑問がしばしば聞かれる。その第20条では、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」とあり、いわゆる無診察診療の禁止である。

 この点について厚生労働省は平成9年より一貫した見解を示している。最新の通知『情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について』(平成23年3月31日)には、「診療は、医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。」「医師法20条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学からみて、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。」「したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない。」 とある。通知内容および日本遠隔医療学会での検討から、TV電話を用いるDtoPの遠隔診療には次のようなことを留意してほしい。
(1)初診の患者、急性期の患者、対面診療のみで診療可能な患者には適用すべきでない
(2)患者と家族への説明と同意を前提とし、患者に利益のあることを客観的に評価して行う
(3)医師側のTV電話画面を他のものが見る場合に、患者の同意を得てプライバシーに十分配慮する
(4)患者宅で遠隔診療をサポートする看護師など職員の教育研修を十分に行う

 TV電話装置と通信手段については使いやすいものを選んでもよいが、装置の限界を良く把握すべきである。また、機器および通信の障害に対して代替手段や技術サポート手段を準備すべきである。

 DtoPにおける遠隔医療は、保険診療では「電話等再診」などを請求できる。診療報酬上の適用条件もあるので、十分に理解して活用しなければならない。

 

 遠隔医療に関わる診療については、関係する各々の学会がガイドライン等を発行し、安全かつ有効にこれを推進するための努力を続けている。日本遠隔医療学会による「在宅等への遠隔診療を実施するにあたっての指針 」、日本医学放射線学会による「遠隔画像診断に関するガイドライン 」、日本テレパソロジー・バーチャルマイクロスコピー研究会による「テレパソロジー運用ガイドライン」などである。遠隔医療の実施に際しては、各専門学会での研究や検討の経緯を熟知の上で進めることが大切である。

 遠隔医療は通信技術や機器類の発展と共に急速な発展を遂げつつある。前述のガイドライン等のみで万全とは言いがたいのも事実である。新しい医療技術は常に新たな倫理的問題を内包していることを鑑み、これを遂行しようとする医師は、医療と社会の全般をカバーする広義の倫理のもとで、得られる知見を学会等において報告し評価を受けるなど、社会の中での適切な行程を進むことが求められる。