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各論的事項 №18
「卵子提供の話題」

吉村 典(慶應義塾大学医学部産婦人科教授)

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 妊娠を希望する女性が高齢であっても、若い女性から卵子の提供を受けることができれば、高い妊娠率や生産率を得ることができることが明らかになっていることより、今やアメリカにおいては、卵子提供による妊娠は不妊症治療法の一つになりつつある。代理懐胎と異なり、子どもが欲しいクライエント夫婦の妻が妊娠・出産を行うことになる卵子提供による生殖補助医療では、現行の分娩者・母ルールに従えば生まれた子どもの母が誰かという問題は起こりにくい。これは多くの国で、その子どもを出産した女性をその子どもの母親と推定するという法律上の原則があるためである。しかしながら、卵子採取は提供女性に身体的負担を強いることになることから、提供される卵子をどのように集めるかが現在大いに問題となっている。

 近年の結婚年齢の高齢化に伴い、閉経期前後でも挙児を希望するカップルが増えてきている。高齢婦人であっても受精可能な卵子を得ることができれば妊娠可能である。しかし高齢妊娠においては、産科管理が進歩した現在においても妊娠高血圧症候群や産科出血などの母体合併症が増加する危険がある。卵子提供が許可されるようになれば、当然のことながらより高齢妊娠が可能となり、妊娠合併症の増加という新たな問題も起こる可能性がある。さらに親が子どもを養育するという観点からも、卵子提供を受けることができる女性の年齢は、自然妊娠が可能な年齢である45歳前後までとするのが望ましいと考えられる。クライエント夫婦が子どもをもちたいという願望はいつも無条件の人権ではなく、時として医学的障害や生まれてくる子の福祉の観点からの社会的、倫理的な問題点もあることを忘れてはならない。

 卵子提供を希望し、かつ医学的適応もあるクライエント夫婦が一定数存在すること、提供者には対価が支払われないことを考慮すれば、医療機関において匿名の第三者のドナーを確保することは極めて困難となることが予想される。そのため、卵子提供のリスクを十分に認識したうえで実施するのであれば、血縁者や友人からの卵子提供の道を閉ざさないことも必要であるかもしれない。しかしながら、自らの意思によることなく、その出生のあり方が規定される子の利益は、十分に保護されなければならない。しかも姉妹からの卵子提供においては、生まれた子どもの身近に遺伝的母親が存在することになり、家族関係が大変複雑化する可能性がある。また生まれた子どもに何らかの障害があった場合、クライエント夫婦はその子どもを享受するであろうか、提供者の心理的苦痛はいかばかりのものかは計り知ることはできない。この際最も大切なことは、生まれてくる子の保護と人間的尊厳性を守ることを第一義に考えることである。

 2013年、性染色体異常(ターナー症候群など)により自己の卵子で妊娠できない女性に対し、NPO法人「卵子提供登録支援団体」が仲介して卵子提供をすることになっている。わが国においてもこれまで一部の生殖医療機関において、姉妹や友人からの卵子提供により子どもは誕生している。厚生労働省の審議会は2003年に卵子提供などの第三者を介する生殖補助医療に関し、報告書をまとめているが、いまだ親子関係を含めた法整備は手つかずのままである。卵子の提供にあたっての法整備は急務である。