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各論的事項 №31
「研究発表の不正行為」

竹内 正弘(北里大学薬学部臨床医学教授)

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 平成20年6月に発表された日本医師会『医師の職業倫理指針[改訂版]』のなかで、科学的根拠のない医療について言及している。「医療の進歩は未知の領域に挑戦するなかで得られるものでもあり、先端的・実験的医療と詐欺的ないわゆる「えせ医療」との区別は往々にして難しい。また、臨床の実地では、現在の科学の枠組みでは必ずしも説明ができないような伝統医学や代替医療などの医療の意義も否定しえない。しかし、原則として医師は科学的根拠をもった医療を提供すべきであり、科学的根拠に乏しい医療を行うことには慎重でなければならないし、たとえ行う場合でも根拠が不十分であることを患者に十分に説明し、同意を得たうえで実施すべきである。いやしくも、それが営利を目的とするものであってはならない。」注1と簡潔かつ厳重に述べている。

 研究発表の不正行為は、医師の職業倫理指針に相反して、企業の営利のためのプロモーション活動に加担するために行われる場合がある。確かに、大規模臨床研究実施のためには、莫大な資金が必要になり、豊富な人材確保が必須になってくる。金銭・人材確保に関しては、企業とコラボレーションしていかなくてはならない。しかしながら、相互の利益(科学的根拠の追求、営利的目的)に関して透明性を担保しながら、科学的根拠に基づいた医療情報を提供するための臨床研究実施は不可欠である。その場合、営利目的とは独立した立場から、臨床研究に関与し、最新の医療を速やかに患者に提供することは、医師の義務である。営利目的のために、臨床研究発表の不正行為を行うことは、公衆衛生、すなわち患者全体に対して不正行為を実施したことに匹敵すると判断できる。

 医の倫理に関しては、日本医師会ホームページ、「医の倫理の基礎知識」注2に説明されている。「医の倫理~その考え方の変遷」注2「ヒポクラテスと医の倫理」注2の項では、医師の医療行為に関しての心がけについて解説、またその変遷についても詳細に解説してあり、表1に変遷項目について列挙してある。「個人への尊重」から臨床研究に参加する「個人の自己決定権」への勧告を行っている。

 新医療技術開発は、企業間で競争が著しく激しくなってきており、医の倫理が単に患者「個人」に対する倫理から、発表された医療情報が与える「公衆衛生」(患者全体の健康)の側面が重視されるようになってきている。その際、考慮されるべき倫理とは、表1に整理してあるように、臨床研究実施のための体制構築に関する倫理と考えられる。「最適な臨床研究デザイン、研究者の資格、リスクとベネフィットのバランス、個人情報保護、実施施設での審査体制、インフォームドコンセント、データモニタリング・管理体制」表1等が挙げられる。実際に生じた問題事案では、研究者の資格、施設の審査体制、データ管理体制の問題が浮き彫りになった。これは、医師の職業倫理指針が指摘している、営利を目的としてはならないことへ、著しく反しており、公衆衛生への倫理を大きく損ねていると判断できる。臨床研究従事者は、研究発表の公衆衛生に与える影響を十分に理解し、倫理指針が提唱している科学的根拠をもった医療を提供するために、臨床研究を実施することを肝に銘ずるべきである。

 臨床研究実施のためには必要資金が一段と増加しており、企業、学術が相互に透明性のある協力体制を構築することが必須である。そのため、医の個人レベル、公衆衛生レベルでの倫理指針をしっかりと保守し、科学的根拠を追求していくことが望まれる。

 

 

参考URL

医の倫理