医師のみなさまへ 医師や医学生のみなさまに役立つ情報を提供いたします。

新規ウィンドウでリンクします。

日本医師会のみなさまへ

各論的事項 №7
「医療事故とADR(裁判外紛争解決手続)」

江本 秀斗(東京都医師会前理事)

印刷用PDFはこちらPDF

 

 「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(ADR法)は平成16年12月1日に公布され、平成19年4月1日から施行されている。ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、民事において公正な仲裁人または調停人が間に入って、裁判によらない当事者の合意に基づく紛争解決方法のことで、その基本理念は「紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るものでなければならない」(第3条第1項)とされている。

 ADRの長所:民事訴訟と比較すると、1.費用が廉価 2.紛争解決までの時間が短縮 3.手続きの簡素化 4.日程調整など当事者の意向に応じる柔軟性 5.裁判所の負担軽減(二次的長所)などが考えられる。一方、短所であるが、1.公平性の確保(特に民間ADRの場合) 2.ADRに関わる専門職の不足 3.制度への認知不足などが挙げられる。

 医療ADRの現状:弁護士会では平成19年9月に東京三弁護士会が各々医療ADR部門を設立したのを皮切りに、現在全国9都道府県(11弁護士会)で活動している。患者側と医療側の立場にて医療訴訟・医事紛争の解決経験が豊富な弁護士が中心となって仲裁・和解あっせんを行うもので、医師が調停委員や専門委員として関与しているところもある。一方、茨城県では医師会主導で弁護士会と市民代表・学識経験者とともに「茨城県医療問題中立処理委員会」を立ち上げ、医療事故・医事紛争・医療関係訴訟が頻発する中、医療側、患者側双方が胸襟を開いて紛争解決に向けた話し合いの場を提供しており、全国の注目を浴びている。また、千葉県でも同様な医療関係者と弁護士、法学研究者が共同で運営するNPO法人「医療紛争相談センター」が医療ADR機関として活動している。

 医療ADRの課題:未だ国民からの認知度は低く、広報活動を行いこの制度の認知度を高める必要がある。応諾率の改善も今後の課題であり、そのためには医療事故の原因究明システムの構築とそれに関わる人材育成が必要と思われる。また、医療ADRの中立性・信頼性に対する問題もある。医師会または患者会が設立したADR機関で、その機関から派遣されたスタッフが紛争の解決を行う場合、相手からみると立場が中立でないため、敬遠される心配もある。

 一般に裁判による紛争解決には時間と費用がかかることから、迅速かつ簡便な紛争解決の手段としてもADRの充実が期待される。しかし、それだけで当事者は満足するのであろうか。医療事故が起こった場合、医療側は金銭的賠償を考え早期解決を求めるが、患者側が求めるものは金銭的賠償だけでなく事故の真相と再発防止策ではないか。患者側と医療側は医療訴訟で対立して傷つけあうより、中立な第三者が間に入り、両者が対話を通じてお互いに納得した合意による解決を図ることこそ医療ADRの利点である。このような医療ADRを普及させるには、中立な第三者(医療メディエーター)の人材育成が必要であることは言うまでもなく、しっかりとした制度が出来れば自ずと課題はクリアされていくであろう。