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各論的事項 №8
「厚生労働省医道審議会の組織と機能」

樋口 範雄(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

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 医師法第七条は、医師に対する行政処分を定める。罰金以上の刑に処せられた者や、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者、さらに医師としての品位を損するような行為をした者等、処分事由にあたる者について、厚生労働大臣は、戒告、三年以内の医業の停止、または免許の取消しをすることができるとある。

 そしてその4項では、「厚生労働大臣は、前三項に規定する処分をなすに当つては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない」と明記し、ここで医道審議会が一定の役割を果たすことがわかる。医道審議会は、医療職の国家試験のあり方や死体解剖法上の解剖資格の認定など、行政処分以外の事柄についての権限も有するが、最も重要な役割が、医師に限らず、歯科医師、保健師助産師看護師、理学療法士などさまざまな医療職の行政処分についての答申を行うところにあるのは間違いない。そのための会議は通例年2回行われる。

 だが、たとえば2012年3月の医道審議会の答申を伝える報道によれば、「医道審議会:医師と歯科医師38人を行政処分」とあり、その処分理由は、集団準強姦未遂、強制わいせつ、傷害、住居侵入などが並んでおり、いったいこれは「医道」を審議する会なのか疑問視される。診療報酬の不正請求という理由は、まさに医療制度に関わるものであるが、今回は「医事に関する不正」として「医療ミスリピーター医師を初処分」したことが注目を集めた。逆にいえば、医療ミスは、業務上過失致死傷罪によって有罪となった事案を除いて、これまでは処分の対象とならなかったのである。

 医道審議会は、30人以内の委員からなり、委員には医師会会長をはじめとする医療専門家や学識経験者が就任している。いくつもの分科会に分かれて、さまざまな医療職のあり方について検討する仕組みが取られているが、少なくとも行政処分については多くの問題を抱えている。

 第1に、処分のほとんどは刑事処分の後追いであり、独自の調査をすることがない。しかも、処分に際しては対象者に弁明や意見を述べる機会が与えられているが、それらは都道府県に手続が委ねられており、実質上処分を決定する医道審議会の委員が聴聞を行うわけでもない。聴聞の記録だけが霞ヶ関に届けられ、そのほとんどは厳しい刑事手続で有罪となった事案であるから、安んじて審議会は処分を答申することができる。だが、それなら審議会は不要ではないか。

 第2に、そのような形式的な仕組みと実施体制の結果、わが国における医師の処分は他と比べて極端に少ない。たとえば、わが国の弁護士数は医師に比べてはるかに少ないが、医師よりも多い数の処分を行っている。アメリカなど外国の医師の処分数と比べれば、その少なさはもっとはっきりする。それが日本の医師の「医道遵守」の結果であればよいが、それを立証するエビデンスはない。

 第3に、医道審議会の議事は非公開であるため、行政処分の基準やその適用について透明性に欠けるとの批判もある。近時は、業務停止処分は3年までと上限が定められたり、金額の多寡を問わず、診療報酬不正請求に対しては同様の処分を行うなど、一定のルールに従った処分がなされていることを示す点もあるが、裁判と同様の公開性が求められてもよいはずである。

 しかし、最大の問題点は、約30万人の医師、約10万人の歯科医師、100万人ともいわれる就業看護師など、圧倒的に多数の医療職を、1つの医道審議会で処分するというのがおよそ無理だというところにある。その役割と機能のあり方を再検討すべき時期である。