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各論的事項 №9
「診療報酬の不正請求の実態とその防止対策」

向本 時夫(福島医科大学医学部医療制度研究センター特命教授)

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保険医療機関及び保険医の責務

 我が国は、一部の公費負担医療対象者(2%弱)を除き、国民はいずれかの医療保険制度に加入し、診療を受けた場合はその要した費用の一部(1割~3割)を負担すれば、誰もが何時でも公平に医療の提供を受けることができる。但し、医療機関や医師が保険診療を行う為には、医療機関は指定を受け、医師は登録しなければならない。

 指定(登録)された場合は法律によりそれぞれ(医療機関と医師)に守るべき責務が課せられている。

 責務が守られているか否かについては、行政は保険診療を正しく理解してもらうため調査や指導を行い、必要に応じ監査を実施している。その結果ミスや違反があった場合は、誤って請求した額の返還を求めると共に必要に応じ行政上の措置を講じている。

 私は、現職に就く前、厚生労働省においてこの指導監査を長年担当してきたが、医師会や厚生労働省の指導等にも関わらず、極僅かな保険医や保健医療機関ではあるが、継続的に不当・不正行為が存在し、その額も毎年数十億円に上るという現実に疑問を感ずると共にその対策に苦慮した。ただ、事実を分析していく過程において感じたことが幾つかあった。

 1つは、単なるミスでは無く不正又は不当と言われる行為を認識しながら故意に行っていた医師がいたということ。2つ目は、社会的ルールや倫理観が欠如していると思われる医師もいたということ。3つ目は、医療保険のルール等について不知に近い医師もいたということ。4つ目は、医師は診療のみを行っていればいいとの考えのもと、請求に関しては全く関与せず事務方に任せっきりにしているところも存在するということである。

 

不正請求等の防止策

 不正請求等の防止策といった観点から考えると、1つ目に該当するような場合は、根本的な考え方が法律等を逸脱したものであり、全てを尽くし頑張っておられる医療機関や医師のためにも、残念ではあるが保険医療、いや医療という世界から排除するのが何よりもの防止策であると考える。

 残りの3つの点については、今後の医師会や行政の対応如何によりある程度防止することは可能と考える。何故なら、医師は高い医療技術と知識を有しているにも関わらず、医療保険の世界では一貫した教育が行われておらず、そのことが起因していると思えるからである。医師会と行政が連携を組み役割分担を行い、繰り返し徹底した教育を行えば必ずや今のような事態は回避できると考える。

 医療安全や感染対策が著明な例である。繰り返し繰り返しの研修等が行われ今やどの医療機関に置いても、しっかりとした体制作りや留意点の周知徹底が行われている。医療保険についてもそれぞれが自覚を持てば同様な状態となることは期待できる。

 なお、研修等においては、人として医師としての倫理観の教育、保険医としての責務を自覚させるべきである。医師は診療が全てであるが、保険医はそれ以外に保険医としての責務がある。保険医がある程度の知識を持ち事務職員に接すれば牽制効果が期待できる。

 最後に、例え少ない単位であっても医師として独り立ちしていく前に、臨床研修の場、できれば大学での教育が行われるよう取り組んで行く必要があると考える。