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日本医師会のみなさまへ

基本的事項 №5
「日本医師会と医の倫理向上への取り組み」

森岡 恭彦(日本医師会参与、日本赤十字社医療センター名誉院長、東京大学名誉教授)

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 医師には診療上の数数の裁量権が認められているが、特に不当な外部からの干渉を受けずに患者の最大の利益を第一として診療に従事する必要があり、このような診療上の独立性、プロフェッショナル・オートノミーは社会的に容認されているといえる。そして、医師にはこのような特権が認められている反面、医師は医療上の知識や技術の修得、向上に努め、また身を正し医道の高揚に努めなければならない。これが臨床医に課せられた倫理的責務といえよう。また医師の専門団体である医師会は医師のこういった倫理的向上への自覚と努力を助け、またこういった努力は患者の利益につながり、また一般の人たちの医師への信頼を保つために重要であることを会員らに認識させることが重要である。

 日本医師会は戦後の昭和22年、アメリカ軍の占領下に新たに任意設立、任意加入の医師会として発足した。会の定款には「医道の高揚」が掲げられており、昭和26年には「醫師の倫理」が制定され、その後も歴代会長は倫理の問題について努力されてきた。武見太郎会長は昭和40年、医師倫理委員会を開催し、この委員会は医師の倫理の在り方などについて討議し、43年にその記録を集めた「醫師倫理論集」を刊行した。

 昭和40年の頃になると、アメリカを中心に医療は「医師の善意に基づく慈善の行為」であるとするこれまで長年にわたり信奉されてきた医の倫理観はパターナリズムとして非難されるようになり、患者の人権を守り、医療についての患者の自己決定権を尊重すべきで、インフォームド・コンセントの重要性が強調されるようになった。この医療上の倫理の大改革は日本ではやや遅れて、昭和60年頃から問題になり、またその頃まで臓器移植、終末期医療、遺伝子治療、また生殖補助医療の問題などが社会的にも問題となり、昭和61年には羽田春会長は生命倫理懇談会を発足させ、以後この会は生命倫理に関する問題についての見解や重要な提言を行い今日に至っている。また62年には生涯教育制度がスタートしその後も継続的に改善策の検討が続けられている。

 平成8年には坪井栄孝会長は新たに「会員の倫理向上に関する検討委員会」を設置し、委員会は特に医師の職業倫理の向上、その実践についての具体的行動について検討をしてきた。まず、昭和26年に制定された倫理規範の改定に着手し、世界の主要国の状況を参照に平成12年には「医の倫理綱領」を策定し、これは同年4月の定例代議員会で採択され、半世紀ぶりに日本医師会の倫理についての新しい綱領が示された。委員会はさらに具体的な問題についての倫理的指針の必要性を考え、平成16年には「医師の職業倫理指針」を作り、会員に配布した。この指針はその後、平成20年に改定された。

 また、この委員会は「会員の倫理・資質向上委員会」と改名されたが、各会長から「倫理・資質向上の実践に向けての対策について」という諮問をうけ、世界主要国の医師の身分上の管理制度、医師の行政処分の状況、また医師会の活動、生涯教育特に倫理教育の状況などを調査し、医師の不正行為の防止、会員の自浄作用、倫理教育、強制加入医師会の必要性など日本医師会の取り組むべき課題を検討し、答申してきた。また平成14年には自浄作用活性化委員会が会内に設置され、委員会は「自浄作用活性化推進に向けて」のハンドブックを作成するなどし、20年に答申書を提出した。

 このように日本医師会は医師の倫理・資質向上に向けていろいろの取り組みを行ってきたが、この問題は一朝一夕に解決できるものでなく、将来とも各会員が問題意識を持ち、自覚を持って行動できるような方策を検討、実施していく努力が大切であろう。