日本医師会のIT戦略、常任理事に聞く。

日本医師会
常任理事
石川 広己

IT化宣言

日本の医療の未来を見据えた
日医IT化宣言2016

 日本医師会では、2001年11月に公表した「日医IT化宣言」を軸に「
ORCAプロジェクト※1

ORCAプロジェクト

各医療現場に標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやり取りできるようにする取り組み

」を推進すると共に、「
日医電子認証センター※2

日医電子認証センター

HPKI認証局を運営し、医師資格証を発行、運用するための機関

」の設立、「
医師資格証※3

医師資格証

電子空間において、所有者が国家資格を持った特定の医師本人であることを証明することができるICカード

」の発行などを進めてまいりました。
 しかし近年、医療分野におけるIT化を取り巻く状況は急激に変化を見せています。レセプトの電子化、電子カルテの導入拡大、超高齢社会における医療・介護情報連携の構築、医療情報データベースの利活用、マイナンバーの導入、個人情報保護法の改正など、枚挙にいとまがない状況です。私自身、厚生労働省や総務省などの医療IT関連会議に出席し意見を述べていますが、日本医師会としてもこれらの流れに対応する新たな指針が必要であると判断いたしました。
 そこで、会内委員会である医療IT委員会に検討・提言いただき、日本の医療ITの未来を見据えた「日医IT化宣言2016」を策定し、公表しました。

電子認証センター

医師資格証は医療ITセキュリティの要

 2000年初頭からORCAプロジェクトを進めていくうちに、電子的な医療情報を保護することやセキュリティの確保が課題となってきました。そこで、医療現場に安全なネットワーク環境を提供するための一つの方法として、保健医療福祉分野の
公開鍵基盤(HPKI)※4

公開鍵基盤(HPKI)

Healthcare Public Key Infrastructure

を用いた認証局(日本医師会電子認証センター)を立ち上げ、「医師資格証」の発行を始めました。
 この医師資格証は、カードに埋め込まれたICチップにより、所有者が医師であることを電子的に証明することができます。地域医療連携システムや地域包括ケアシステムにおけるログイン認証手段として利用したり、電子紹介状などに捺印することで、作成者が確かに医師であることを証明することなどができます。さらに、写真付きの身分証としても携帯できるカードになっているため、災害時や緊急時に医師の証明として活用することも可能となるでしょう。東日本大震災や熊本地震などの災害が発生し現場が混乱する中で、医師確認が迅速に行えることは大きな安心感だと思います。
 また、カード型で携帯できる自動車免許証や健康保険証と違い、医師の国家資格を証明するものは、今まで賞状のような大きさの紙の医師免許証しか存在していませんでした。とても携帯できるようなものではありませんから、それを逆手に取ったニセ医者が出現する事件も残念ながら起こり得ました。医療ITの世界ではそのようなことが起こらないように、医師資格証の普及に努め、医師や医療関係者はもちろん、国民の皆さまの認知度向上をはかっていきたいと考えています。

ORCA進化型オンラインレセプトコンピュータシステム

日本医師会ORCA管理機構設立で目指すものは

 ORCAプロジェクト開始から10年以上が経ち、日医が提供する日医標準レセプトソフト(以下、日レセ)も業界No.2と肩を並べるほどに成長してきました。レセコンは初期導入費用が高いだけではなく、診療報酬改定の度にソフトを書き換える必要もあるため、医療機関にとっては大きなコスト負担となっていました。それらを打破するために、日本医師会として、メーカーに左右されずに、安価で導入・運用可能な日レセを提供してきたわけです。これにより、レセコンの価格破壊は実現できたと思いますが、日レセをはじめとするORCAプロジェクトを、今後さらに発展させていくために、平成27年12月に日本医師会ORCA管理機構株式会社(以下、ORCA管理機構)を設立しました。
 まず取り組んだのが、日レセのクラウド化です。クラウド化を行うことで、従来よりもさらに安価に、セキュリティが担保された質の高いレセコンを提供することができるようになります。さらに、多数のメーカーの電子カルテと連携できる日レセの強みを活かし、レセプトエンジンとして組み込んでもらうよう、メーカーに対する働きかけを行っており、電子カルテの価格破壊にも繋がると強く期待しています。
 さらに、日レセを基盤として、医療現場からビッグデータを収集するための実証も進めています。これは、次世代医療基盤法の施行に向けた
AMED※5

AMED

日本医療研究開発機構

の委託研究事業の一環として行っています。ビッグデータの適切な利活用には、新しい薬の開発や想定していなかった副作用の発見など、多くのメリットを期待できます。一方、医療情報というものは究極の個人情報ですから、個人情報保護の観点を忘れてしまっては本末転倒です。日本医師会はORCA管理機構とともに、医療を良くするための正しいビッグデータの活用を目指しています。

患者の個人情報を守ることは
医療従事者の義務

 病院や診療所で使う患者さんごとの番号といえば、施設独自の患者番号と健康保険証番号の二つがあげられます。患者さんの医療情報を、他の病院や診療所とITでスムーズに連携していくためには、情報を紐付けする固有のIDが必要となってきます。かつて、マイナンバーを医療に導入する、といった案も政府から出てまいりましたが、日本医師会としては強く反対しました。というのも、生涯変更のない番号で医療情報を連携してしまうと、その番号が漏れた際にはその人の生涯に渡る医療履歴が全てあからさまになってしまう危険性があると考えたからです。
 繰り返しになりますが、医療情報というのは患者さんのとても大切な個人情報です。近い将来、遺伝子情報などが紐付けられることで、遺伝性のある疾患リスクや、知られたくない病歴が他者に伝わってしまうようなことはあってはなりません。ましてやそれが原因で、差別や人権侵害などが起こってしまうことは絶対にあってはならないことなのです。そこで日本医師会では、医療情報連携には、マイナンバーのような生涯変わらない番号ではなく、医療連携用ID、研究用IDといったように、必要なときに必要な形で発番できる「医療等ID」という考え方を提案しています。

医療等分野専用ネットワーク
構築へ向けて

 この医療等IDの運用や、オンライン上でのさまざまなサービスが普及していく中では、より高度なセキュリティが確保された、公的かつ広域なネットワークが求められるようになります。医師会では、厳格な機関認証を受けた病院や診療所等の関係施設、接続要件を満たしたサービス事業者のみが接続できる、高度なセキュリティが確保された医療等分野専用ネットワークの構築も検討、提案しています。
 医療分野では、公的広域ネットワークという考え方は今までなかったものです。公益性を担保しつつ、全国のサービス事業者も巻き込んだ形で事業を展開していく必要がありますから、ネットワークの運営主体が果たすべき責任は非常に大きいものになります。運営主体の立ち上げ方や方向性を喫緊の課題として、鋭意検討しているところですが、なかなか簡単ではありません。
 また、全国を万遍なくカバーする必要があるため、厚生労働省や総務省をはじめとする関係省庁ともしっかり連携しながら、着実に進めていかなければなりません。当然ながら、病院や診療所などは既に何らかのネットワークをご利用いただいているケースが大半です。地域医療ぐるみで専用ネットワークに参加いただくためにも、いかに実務的、コスト的なメリットを提供していけるかも大きなポイントになると考えています。

今後のIT戦略

日本医師会のIT戦略への想い

 現在私たちは、国や自治体などと一丸となって、2025年を目途に
地域包括ケアシステム※6

地域包括ケアシステム

高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供を行う体制

の構築を推進しています。その実現に向けては、各病院や診療所にバラバラに存在する患者さんの情報を、患者さんの同意の下で、安心・安全・確実にやり取りするための地域医療連携ネットワークの整備が不可欠です。特に、患者さんが旅行したり、引っ越したりした時など、地域が異なるネットワークを跨いだ情報連携を行うためには、医療等IDが絶対に必要になります。
 当然ながら、ORCAプロジェクトや認証局といった従来からの取り組みについても、ネットワーク上で標準化された互換性のある情報を扱っていくために、さらに強力に推進していかなければなりません。
 いずれにしても、医療におけるIT化が進む現代において、私たち医療従事者は患者さんの健康を守ると同時に、ひとりひとりの個人情報を守る立場にもあります。医療の現場全体として個人情報に対する意識をもう一段階上げて、IT化という大きな流れに振り回されることなく、適切に対応できるよう、しっかり取り組んでいくと共に、必要な情報発信を行っていきたいと考えています。

日本医師会 常任理事

石川 広己(いしかわ ひろみ)

65歳・千葉

千葉県出身、千葉大卒、鎌ヶ谷市医副会長、千葉県医理事を経て、平成22年より日医常任理事。小児科

  • ※1 ORCAプロジェクト : 各医療現場に標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやり取りできるようにする取り組み
  • ※2 日医電子認証センター : HPKI認証局を運営し、医師資格証を発行、運用するための機関
  • ※3 医師資格証 : 電子空間において、所有者が国家資格を持った特定の医師本人であることを証明することができるICカード
  • ※4 公開鍵基盤(HPKI) : Healthcare Public Key Infrastructure
  • ※5 AMED : 日本医療研究開発機構
  • ※6 地域包括ケアシステム : 高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供を行う体制

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ORCAプロジェクト

各医療現場に標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやり取りできるようにする取り組み

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日医電子認証センター

HPKI認証局を運営し、医師資格証を発行、運用するための機関

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医師資格証

電子空間において、所有者が国家資格を持った特定の医師本人であることを証明することができるICカード

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公開鍵基盤(HPKI)

Healthcare Public Key Infrastructure

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AMED

日本医療研究開発機構

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地域包括ケアシステム

高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供を行う体制