日本医師会の医療ICT化、そして医療情報システム協議会について 日本医師会 会長 横倉 義武氏

日本医師会 会長横倉 義武

日本医師会の医療ICT化の
取り組みについて

日本医師会が考える医療分野のICT化

 国民の幸福の原点は健康にあり、それを支える医療提供体制の構築は最重要課題です。日本医師会は、かかりつけ医を中心とした医療提供体制や地域包括ケアシステムの構築を通じた「まちづくり」を推進していきます。また、「まちづくり」の担い手であり、変革期を迎える医療を取り巻く環境に対応していける「人づくり」、そして、医療政策を常にリードし続ける「組織づくり」を進めるなかで、地域医療の再興はもちろん、国民のための安全、安心な医療を実現していかなければなりません。
 そのなかでも、国民に寄り添う医療を提供し続けてきた「かかりつけ医」が中心となった「まちづくり」の大きな柱である地域包括ケアシステムの構築は、医療と介護の連携が必要不可欠です。現在、医療・介護連携を含めた地域医療連携の場面では、ICTの積極的な活用が急速に進んでいます。このような動きのなか、日本医師会は平成28年6月、医療分野のICT化の今後の取り組みの指針である「日医IT化宣言2016」を公表し、安全なネットワークの構築や、個人情報保護、地域医療連携・多職種連携を含めた宣言を行いました。
 その実現に向け、日本医師会では、医療等分野専用ネットワーク構築や医療等IDに関する議論、医師資格証の利用シーンの拡大を含めた普及促進等、医療機関が安心して安全・安価に地域医療連携に活用できる広域的なネットワークの構築を目指しています。
 これらは、医療のICT化の基盤を創るためには欠かせない重要な要素であり、実現によって医療分野のICT化はより安全に推進することが出来ることになります。

医療ICTの未来展望

AIを用いた診療・治療支援

 人工知能(AI)は第3次ブームを迎えており、AIが人間の能力を越えたというニュースが大きく報じられています。特に、囲碁ソフトウェアの Alpha Go が、人間のトップ棋士の棋力を遥かに凌駕したことは世界中に衝撃を与えました。
 実は、AIの一部は医療領域で既に導入されています。心電計・尿血液分析装置での自動診断がその一例です。心電図の自動診断は 1970 年代に実用化され、自動診断なしでの検診は考えられないほど普及しています。自動診断システムに加え、IC などの周辺機器技術の進歩により、より安価に、迅速で、精度の高い診断が可能となりました。自動診断により心電図診断の医師業務は大きく低減され、医師は診断の解釈、患者さんへの説明により時間を割くことができるようになりました。AIの医療領域での利活用は、今後、劇的に進み、医療における医師の役割は大きく変わる可能性があると考えています。
 大量のビッグデータがAIにより統合的に利用・解釈・学習されることで、医療・健康領域の新たな特徴量が抽出されるかもしれません。Alpha Go においても、人間が説明できないものの、先を見越した素晴らしい一手というものが存在しました。説明可能な「ホワイトボックス」を中心に据えた利活用を優先して進める一方、「ブラックボックス」から得られた診断・治療に対して、その判断根拠を明らかにできるか?そこから新たな研究が産まれるはずです。しかし、AI のリスクさらには限界とあるべき姿については十分に認識しておかねばなりません。このため、結果の解釈、そして患者さん・ご家族への説明にこそ、医師の役目で、様々に示唆されたデータを元に診断は最終的には医師の責任で行うべきであり、従前にも増して、患者さんや家族の経済、社会的背景、思想、宗教、心理などを加味して、患者さんに寄り添い治療方針を提示するのもまた人間としての医師の大事な仕事です。これはAIには出来ない仕事であると考えております。

医療介護のビッグデータの利活用について、
現在の取り組みと今後の展望

 平成30年5月に、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」、いわゆる「次世代医療基盤法」が施行されました。この法律で定められた「認定匿名加工医療情報作成事業者」という制度は、国の協議会の場で、私たちも関係省庁と一緒に検討を行ってきたものです。
 この認定事業者は、病院や診療所などから患者さんの医療情報などを集めて、名寄せしてデータベースを作ります。そして、データの利活用を希望する研究機関などからの申請を審査して、問題がなければ、誰の情報か特定できないように匿名加工したデータを提供する事業を行います。もちろん、国の認定を受けるためには、厳格なセキュリティ体制や専門知識を持ったスタッフを有する事業者でなければなりません。
 この制度がうまく軌道に乗れば、治療の効果や効率性などに関する大規模な研究が行えるようになります。その結果を活かすことで、患者さんにこれまで以上に最適な医療を提供することができるようになるでしょう。
 その一方で、私たち日本医師会は、国民一人ひとりの生涯にわたる健診・検診データを、厳格に個人情報を保護しながら一元的に管理し、ライフサイクルに応じて活用するためのシステムづくり―「生涯保健事業の体系化」が必要だと考え、実証事業に取り組んできました。このシステムは、正に次世代医療基盤法の認定事業者の仕組みとオーバーラップするものだと言えます。
 そして、生涯を通じた健康管理に向けた取り組みを深化させ、「かかりつけ医」を中心とした医療情報、健診情報、介護情報、そして死亡情報、生活情報など重要なファクターが加わった医療ビッグデータの利活用によって、国民への保健医療福祉サービス提供の質の向上や、国民の健康増進、健康寿命の延伸を通じた社会保障費の適正化、並びに海外に向けたこれらの基盤や制度構築の支援等、の実現が期待されます。

医療情報システム協議会について

明日の医療を彩るICT

 都道府県医師会を主体とした全国医療情報システム連絡協議会(全医協)と、郡市区医師会を主体とした地域医療情報ネットワークシステム研究会(コミネス)という医療情報に関する任意団体があり、個々に活動しておりましたが、医療分野におけるICT化に関して、日本医師会がイニシアチブを取り、情報化の核としての活動を強力に推し進めることを目的として、平成17年度より「日本医師会医療情報システム協議会」として開催しています。
 今年度は、「明日の医療を彩るICT」をメインテーマに文京シビックホールにて開催いたします。1日目の「オンライン診療の現状と将来展望」のセッションでは、厚生労働省からオンライン診療の概要や考えをお聞きし、次に、総務省が現在行っているオンライン診療に関する実証事業の報告、日本医師会の見解を申し上げます。シンポジウム「医療分野のAIとIoT」では、日本のIoTの第一人者といえる坂村健東洋大学情報連携学部情報連携学科教授に基調講演いただきます。
 2日目の「日本医師会のICT戦略」セッションでは、日本医師会のICT化の取り組みや医師資格証の普及促進について報告いたします。そして、「医療セプター」の事務局を日本医師会が平成30年から務めることになったことによる情報共有体制やセプター訓練実施結果の報告を行います。午後からは「全国保健医療情報ネットワーク」セッションです。日医IT化宣言2016で謳われている大きな柱が「安全なネットワークの構築」です。従来、医療等分野においては、レセプトオンライン請求や各地の地域医療連携など、目的別・地域別にネットワークが構築されていますが、多職種連携や電子紹介状のやりとり、治療・検査データベースとの接続など、機微な情報を扱う様々な医療等のサービスを共通利用することができる高度なセキュリティが確保された全国ネットワークというのは存在していません。現在検討が進められている医療等分野の識別子(ID)と全国医療情報ネットワークの進展について、議論するセッションを設けました。
 また、第二会場では、ロボットスーツ「HAL」による臨床応用の現状と課題についての講演だけでなく、展示・実演も行う予定ですので、沢山の方に参加いただければと考えています。

日本医師会 会長

横倉 義武(よこくら よしたけ)

福岡県
久留米大卒、福岡県医常任理事・副会長・会長、日医副会長を経て、平成24年より日医会長。外・循環器科