米国疾病管理センター:CDCの11月16日付け
こどもおよび授乳中の女性の炭疽症予防投与、
こどもの炭疽症の治療に関する追加情報日本語要旨

日本医師会総合政策研究機構主任研究員
米国内科専門医、米国感染症科専門医、英国熱帯医学専門医
五味晴美

以下は、米国疾病管理センター:CDCが11月16日号の公式刊行物Morbidity and Mortality Weekly Report 2001;50:1014-16において発表した今回のバイオテロリズムの状況下での、こどもおよび授乳中の女性の炭疽症予防投与、こどもの炭疽症の治療に関する追加事項である。予防、治療のガイドラインの日本語要旨は、本ホームページを参照のこと。(10月17日付けおよび10月26日付けのCDCガイドラインの日本語要旨)

原本は、http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5045a1.htmで無料でみることができるので、参照のこと。


現在、米国では、炭疽菌によるテロリズムにおいて、予防投与および治療には、シプロフロキサシン、または、ドキシサイクリンを第一選択薬に推奨している。使用された炭疽菌がペニシリンに感受性がある場合に限り、アモキシシリンはこどもや妊婦の予防投与あるいは60日間の皮膚炭疽症の治療に代替薬として使用可能である。

シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、プロカインペニシリンGは、肺炭疽症の予防に有効であることが、ヒト以外の霊長類の実験でわかっており、FDA(米国食医薬品検査庁)で炭疽症への使用が承認されている。アモキシシリンについては、動物実験されておらず、FDAは炭疽症の予防および治療として使用することは承認していない。

その他のデータでは、炭疽菌は、セファロスポリナーゼを産生することがわかっており、そのため、ベータラクタマーゼが誘導される可能性がある。それにより、多くの菌が存在する場合には、ペニシリンの効果が減少する危険がある。また、ペニシリンは、細胞内の濃度が低いため、マクロファージの中で発芽中の芽胞を殺す力が弱い可能性がある。

以上の理由から、ペニシリン(アモキシシリンも含む)は、炭疽症の初期の治療には勧められない。しかしながら、相対的に少量の菌量が存在することが予想されるときには、ペニシリン(アモキシシリン)も予防投与には有効である(治療ではない)と考えられる。

したがって60日間の予防投与には、暴露した炭疽菌がペニシリンに感受性が有る場合は、こどもには、アモキシシリンを代替薬として使用してもよい。

こどもの肺炭疽症、あるいは炭疽の全身疾患では、初期治療に、シプロフロキサシンまたは、ドキシサイクリンの静脈注射(訳者注:日本ではドキシサイクリンは経口薬のみ使用可能)を使用すること。また、シプロフロキサシン以外のニューキノロン系の抗菌薬に関する経験的事実は限られている。

2歳以下のこどもの皮膚炭疽症の初期治療は、全身疾患を併発する可能性が高い危険性があるので、経口薬ではなく、静脈注射薬が望ましく、2-3剤併用することを考慮すること。

静脈注射で、肺または、皮膚炭疽症が臨床上改善した場合は、1-2剤の経口薬に変えてよい。

どの併用療法がもっとも良いかは不明であるが、肺炭疽症の成人の場合、今回のテロリズムでシプロフロキサシンとリファンピンの併用が使用された。

総治療期間は、肺、皮膚炭疽症ともに60日間である。こどもの場合、60日間という長期にわたり、シプロフロキサシンまたは、ドキシサイクリンを使用することによる副作用が懸念される。そのため、肺炭疽症では、14-21日間の初期治療(シプロフロキサシンまたは、ドキシサイクリンのいずれかを含む1-2剤使用)の後、あるいは合併症のない皮膚炭疽症では7-10日間の初期治療(シプロフロキサシンまたはドキシサイクリンを含む1-2剤使用)の後では、アモキシシリンを60日間の治療を完了する目的で代替薬として使用してもよい。