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<最優秀賞>
「私の中の看護師」
和賀 沙耶香(12) 福島県いわき市・小学6年生

 「さっさと着替えてご飯食べちゃってね」
 「分かってるよ」

 私はいつもこんな気のない返事をする。母は朝からとてもいそがしそうに、てきぱき動いている。私たちと同じくらいに家を出て出勤するため、朝の母はとてもあわただしい。母は看護師なのだ。人の命を預かる仕事をしている。いい加減なことはできない。だからかもしれないが、母は何においても完ぺきな人だと私は思う。

 私は母の大変さを知っているものの、朝は母を少しこまらせたくなってしまう。それは、なんだかかん者さんたちに私の大切な母を取られてしまうように思うからだ。母は私たちよりもかん者さんの方が大切なのかなぁ……と時々思うことすらある。

 なぜ母は看護師になったんだろう。人の命を預かるためミスはできない上、休けいも少なく、この上なくつらい職業なのに。しかも悲しいことだって多いだろうに……。私だったら決して看護師になろうなんて思わないだろう。

 私は母に聞いてみた。「どうして看護師になったの?」。母は、にこっと笑って、「この仕事が、看護師さんが好きだからなんだよ」。

 私はますます分からなくなった。なぜそれほどまでに、こんなに大変な仕事をh好きeと言えるのだろう。私は、もしかしたら母のことをきちんと理解していないのかもしれない。そう思うようになっていった。

 「ねえ、おばあちゃん。お母さんはどうして看護師さんになったの? 看護師さんが好きってだけ?」。私は、祖母に救いを求めるように、こうたずねた。すると祖母は、「きっとお母さんは、おばあちゃんが亡くなったことが悲しかったからなんだよ。おばあちゃんを助けたいのに、何も出来なかったことをくやんでいるの。だからおばあちゃんにしてあげられなかった分、多くの人の命を助けたいと思ったんじゃないかな」。

 母はよく私に曽祖母の話をする。優しく、しっかりした人だった、大好きだったと母はよく私に教えてくれる。私は一度も会ったことはないけれど、すてきな人だったのだろうと思う。なんだか少し母の患者さんに対する気持ちが分かったような気がした。少しずつ心につかえていたものが解けていくように感じた。

 祖母は私の心を見すかしたように、「お母さんが看護師でいやなの?」。私は言葉につまった。そして正直に、「お母さん、私とかん者さんとどっちが大切なんだろう」と聞いた。祖母は、私をさとすようにはっきりと、「それは、沙耶香に決まってるよ。お母さんにとっては沙耶香が看護師さんのようなもの。お母さんの元気のもとはお前なんだよ。だから、沙耶香だってお母さんを通して多くのかん者さんの力になっているんだよ」。

 おどろいた。私が母の看護師……。私の心につかえていたものがすべて消えていったしゅん間だった。

 「沙耶香、早く着替えなさいね」
 「もう終わってる。何か手伝おうか?」

 今日も、朝から母はいそがしい。私は、あれから少しずつ母の仕事を理解できるようになっていった。少しでも早く母をかん者さんたちの所へ行かせてあげたいと思うようになった。だから家にいる時くらい私がいたわってあげたい。

 私は近ごろ、看護師になりたいと思い始めた。それは人のためにつくす母の姿を理解できるようになったからだ。看護師はたしかに大変な仕事だ。でも、私も母のように、「看護師が好きなんだ」と心から言えるすてきな看護師になりたい。


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