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<アメリカンファミリー介護賞>
「愛は勝つ ―家族愛―」
石松 雄太 (15歳) 埼玉県久喜市・中学3年生

 今までは幸せだった。家族五人で平凡にくらしていた事が、普通にうれしかった。一緒に笑ってはしゃいで、笑顔が絶えなかった。しかし、こんな我が家の幸せを奪ったものは、あまりにも大きすぎるものだった。

 平成十四年十月十三日。「父、くも膜下出血で倒れる」

 本当に急な出来事だった。朝食は一緒に食べていたし、にぎやかに会話もしていた。それが急に苦しみ出し、家中をかけ回り、もがきながら意識をなくしてしまった。目の前で起こっている事が、何が何だか分からなかった。テレビやドラマでは、このような事を見たりもするが、まさか我が家にこんな災難が降りかかるとは、思ってもみなかった。父はすぐさま救急車に乗せられ、救急救命センターへ運ばれた。医師からの第一声は、あまりにもひどいものだった。

 「非常に危険な容体です。最悪の事態も覚悟しといて下さい」と・・・。こんな事を言われた日には、みんなが落ち込んで、寝つく事もできなかった。

 しかし父は違った。病気などに負けることなく、四時間にわたる手術も、そのたくましい体と家族を思う心で乗りきってくれた。父が倒れてから手術が成功するまでは、生きている心地がしなかった。毎日色々な事を考えすぎてしまい、僕の心は尋常ではいられなかった。しかし、手術後も笑顔ではいられなかった。父は何日たっても動かず、ただ周りの機械に生かされている感じだった。まるで、人形のようだった。

 倒れてから一か月半後。やっと我が家に希望の光が差し込んできた。父の意識がやっと戻ったのだ。それからは毎日、父と家族の死闘の日々だった。父はリハビリに耐え、家族は毎日往復三時間の道のりを通った。そんな努力も実り、二か月半後。少しはまともになった父は、リハビリ専門の病院へ移った。ここでは、身体・頭脳・記憶のリハビリが何度となく繰り返された。たくさんのリハビリを行い、その回復も手にとるように変わっていった。名前を呼んでくれた、笑ってくれたという本当にささいな事でも、家族は大喜びだった。父も最初よりは回復してきたが、ここの病院は三か月たつと、強制的に退院しなければならなかった。

 倒れてから五か月後。退院の日がきた。入院中も外泊は随分したが、これからは毎日介護生活をしなければならない。退院とはいっても、まだボーッとしている事が多く、話す事がかみ合わず、歩くのも十r歩けるかどうかだった。朝から夜まで、一から十まで、すべてにおいて介護が必要だった。何で僕がおむつを取り換えるの、食事を食べさせるの、お風呂に入れてあげるの。毎日が心の葛藤の日々だった。普通の人が普通にできる事でも、父には大仕事なのだ。介護におわれる毎日だが、家族みんなで支え合ってきたからこそ、今があるのだと思う。姉は毎朝三時に起きて、父をトイレに連れていってくれる。兄は父と遊んでくれる。そして僕が父をお風呂に入れるという感じだ。

 そんな中でも、やはり母が一番大変だと思う。今までずっと頼ってきたたくましい父が急に倒れ、家族を守るのに必死なのだと思う。母は父と一番多く接しているため、父が回復するのならと、精一杯頑張ってくれている。毎日散歩に連れていったり、遊ばせたり、頭を使わせたりと、本当に大変なのに何一つ愚痴もこぼさない。そんな優しい母を、もっともっと子ども三人でサポートしていきたい。病気になる前はあんなに大きくて、家族の大黒柱だった父も、今では大きな赤ちゃんだ。家に居てもただボーッとしていて、頑張ってやるのは、食事とテレビを見る事ぐらいだ。何かやればというと、すぐどなりちらし、物を投げる。自分からは何もしようとせず、その日の記憶さえ全く残っていない。こんな風で、本当にもとに戻るのだろうか。家族は暗くなる一方だ。しかし、父のおかげで家族の絆は深まっていった。父が病気をした事で家族の会話も増え、家族の素晴らしさも改めて実感できた。

 父は今、週四日通所リハビリへ通っている。高齢者の方と色々な運動や遊びをして帰ってくる。そんな中でも父は、本当に少しずつ、一歩一歩ながら回復へと近づいている。まだまだ心身共に、普通の人には程遠いが、最近、「朝初めて一人でベッドから起きてきた」という大きな進歩があった。まわりから見れば、ほとんど変わらないようだが、この一歩は父にとっても家族にとっても大きな一歩なのだ。介護とは本当に難しいものだ。手伝いすぎてもいけないし、ある程度は手助けが必要だ。しかし、今一番頑張っているのは父本人なのだと思う。愛があるからこそ頑張ってほしいし、家族という強い絆で病気と戦っていきたい。社会復帰というゴールまでは、まだたくさんの試練があるだろう。しかし、家族一丸となり、一つずつ壁を打ち破っていきたい。

 「お父さん、ガンバレ」


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