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<入選>
「里山リハビリセンター構想」
伊東 和博(64) 大阪府池田市・無職

 パーキンソン病患者であり、また同時に、その介護者でもある私は、リハビリを兼ねた"クリーン登山"を行うため、ふらつく体を支えながら、二年前から毎日、近くの里山へ登り続けています。

 近年、どこの里山も高齢化の波と、若者の都会志向による人手不足の影響で、手入れは行き届かず、荒れ放題の状態だと言われています。我が里山も例外ではなく、遊具は設置され、散策路も整備されてはいるものの、小石や小枝の散乱が激しく、樹木の手入れに至っては、全く手付かずの状態でした。しかし、最近は「ずいぶん美しくなったねえ」と道行くハイカーも喜んでくれるほど、散策路は美しさを取り戻し、樹木の手入れもだいぶはかどって参りました。このように日々、美しく変貌してゆく我が里山を眺めては、一層の事、この山の一部でもいいから、医療用に転用できないものだろうかと、真剣に考えるようになりました。いわゆる"里山リハビリセンター構想"です。

 今後、急激な高齢化に伴い、運動療法等を必要とする患者は、ますます増加するものと予測されています。病院内の狭いトレーニング・ルームで、他の患者に気兼ねしながら細々と続けなければならない、スケールの小さなリハビリでは、病状の早期回復は望み難いと思います。そこで発想を大きく転換し、私が毎日"クリーン登山"で登っているような、青空の下、空気はおいしく、野の花は咲き乱れ、小鳥たちが無心にさえずっている、そんな美しい里山で友と人生を語り、疲れを癒やしながら、ゆっくりリハビリに取り組んでみたいと思いませんか? また気が向けば、樹木の手入れをしたり、下草を刈ったり、またある時は、蝉やトンボを追いかけるなど、童心に帰りながらも、気が付けば、いつの間にか十分な運動量が確保されていたというような、そんな夢みたいな楽園"里山リハビリセンター"が近くにあったら、どんなに生きる力になってくれるだろうかと、一日千秋の思いで、毎日待ち続けているのです。たとえどんなに小さなバラック建ての小屋であってもいい、みんなが自由に集い、語り合い、気楽に利用できたら、どれほど老後を明るく、心豊かに迎えられるだろうかと、楽しみに待っていてくれる患者は、全国には大勢いると思うのです。

 このように、広々とした里山で、見知らぬ者同士がお互いに疲れた心を開放し、いたわり合い、樹木の手入れや、草刈り等の軽作業を通じて五感を磨き、人生を語り合えるなんて何とすばらしい事でしょうか。そして、「この小さな自分の行為が、社会の一隅を照らしているんだなあ」と悟った時、人間は誰でもおのずと"生の欲望"に目覚め、「自ら生きよう、自ら治そう」とする強い意欲が怒濤の如くわき上がって来るのを禁じ得ないと思うのです。これこそが私たち人間が、未来永劫にわたって、追い求めて来た「英知」と言うものではないのでしょうか。そしてまた、これこそが医療に最も必要な病気を治そうとする力、すなわち「自然治癒力」なのだと確信して疑いません。

 私は毎日樹木の手入れを続けながら、病院にいては、とても想像もできない「魔力とも言える不思議な力」が、この里山には潜んでいるんだなあと、つくづく思うようになりました。

 「病は気から」という言葉があるように、薬や注射はもちろん必要でしょうが、こうして里山で流す「汗」の中からわき出て来る、「生きていてよかった、強く生きよう、強く生きたい」という生命の絶唱ともいえる、この生命の発露こそが、今後の予防医療の分野においても、「原点」「指針」として、生かされなければならない、最重要命題の一つだろうかと考えているのです。

 今春、国会では、"健康増進法"が成立し、京大再生研では"ヒトES細胞作製"に成功したと報じられています。健康に対する意識が非常に高まっている時節柄、願わくば、国、行政は、地球環境をも考慮に入れ、国家百年の大計に立脚し、私のこの、"里山リハビリセンター構想"を検討の俎上(そじょう)に載せていただき、ぜひ、これの実現方、議論の資に供していただけたら、望外の喜びとするところであります。

 私たち、パーキンソン病患者は、死期の告知こそありませんが、死を宣告された患者以上に、いつ、どこで、どうなるのだろうかと脅えつつ、とても不安な気持ちで毎日を過ごしているのです。

 「生きたい、生きたい、一日でも、一秒でもいいから、美しい夢を抱いて、長く生きていたい」

 この"里山リハビリセンター構想"は、自分が病人であり、介護者であり、しかも、死を見つめ"クリーン登山"に希望を託しながらも、なおかつ、自力で明日を信じ、懸命に生き抜こうと、毎日血みどろの闘いを続けている、六十四歳の男性の各界に対する生命の絶唱でもあるのです。

 「この声、天に届け!!」


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