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一般の部
<入選>
「絆が結んだ命の懸け橋」
田代 彩(22歳)千葉県市原市・専門学校生


「透析はしたくないです」

病室にはかたくなに治療を拒む女性の姿があった。私は看護学生でこの実習でははじめて三週間という長い期間にわたって患者を受け持つ実習となる。彼女は私が受け持たせていただく患者さんで、五年前から慢性腎不全を発症し、今回悪化したために入院した六十七歳の女性である。(以下A氏とする)。入院後に透析を行うためのシャントを造設する手術は既に受けた後であった。

「透析を始めたら一生やり続けなきゃいけないでしょ? 私そんなの嫌よ」

と、毎日透析治療を拒み続けるA氏の話を私はベッドサイドで毎日聞いていた。私は

「ずっと続けるのは大変ですよね。でも透析をすることで体の機能は良くなるので今よりずっと楽になりますよ」

と、A氏の話を共感しながら透析導入の効果などを伝えていった。私は慢性腎不全によって起こる足の浮腫(むくみ)を軽減するために足浴(足湯)を行ったり、シャワー浴の介助を行ったりと日々ケアを行っていた。ある時、私が

「透析中は私がずっとそばにいるので透析を始めてみませんか?」

と、A氏に伺うと、

「そうねぇ……」

と、悩む姿があった。翌日、私が病院に行くと、A氏が透析療法を開始する日が決まっていた。A氏は

「あなたがそばにいてくれるって言うから頑張ろうと思うの」

と言って、透析へ行く準備を整えていた。私はA氏の前向きな姿に喜びを感じた。私はA氏のはじめての透析の時間中、A氏の体の異変に注意しながらそばにいて、たわいのない会話をした。その後の透析日も透析の時間中ずっとそばにてA氏を見守っていた。私の実習期間が終わりに近付くころ、A氏の誕生日が入院中にあることに私は気付いた。入院は患者さんにとっていいものではないが、少しでもいい思い出が持てればと思い、私はA氏の誕生日を祝おうと考えた。誕生日当日、私は

「Aさん。今日はAさんの誕生日なので、お誕生日の歌を歌いますね」

と言って、ハッピーバースデーの歌を歌い、拍手をした。私はプレゼントを渡すと、A氏は娘さんに手伝ってもらいながら包みを開けた。すると、

「シャントカバーだ!!」

と、A氏と娘さんは声を合わせて言った。

A氏は目から涙をこぼしながら、

「ありがとう……すごくうれしい」

と、何度も何度も繰り返した。病院内で透析を行う患者さんはシャントを保護するカバーにひざやひじ用のサポーターを使用していたが、A氏はやせているために合うカバーがなく、日々悩んでいた。私はその姿を見ていたので、A氏に合うシャントカバーを作ってプレゼントしようと考え、誕生日のプレゼントとした。その日以来、A氏は毎日私の作ったカバーをしてくださり、透析の治療を続けていた。

 実習の最終日になり、最後のあいさつをしに病室に伺った。すると、A氏は私に一通の手紙をくださった。その手紙には「あなたが透析の間、ずっとそばにいてくれたから、この病気と一生付き合っていこうと思うことができました。病院で祝ってくれた誕生日は六十七年間生きてきた中で一番の忘れることのできない誕生日になりました。あなたのその優しさを忘れずにいい看護婦さんになってね。またどこかで会えたらいいですね」と書かれていた。私は涙をこらえることができず、別れの握手の手を離すことができなかった。それは、A氏も同じだった。三週間という短い期間ではあったが、二人の間には温かいきずなが生まれていたことを強く感じた。私はA氏と出会ったことでこれからもたくさんの患者さんに生きる力≠与えていきたいと思った。そしてそれが私の目指す看護なのだと気付くことができた。この出会いは私にとっても、A氏にとっても素晴らしい出会いになったのだと思う。

 今、私は看護学校の三年生。これから出会う多くの患者さんと素晴らしいきずなを結び生きる力≠与えてあげられるような看護師になりたいと思う。

シャント=腕の動脈と静脈を人工的につなぐ管


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