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一般の部
<入選>
「医師を超えた私の人生の支え」
植松 めぐみ(40歳)金沢市・主婦


 私は生まれながらの先天性の心臓の病気で今から二十八年前に三尖弁閉鎖症という世界でも珍しく日本でも三例目という難しい手術をしました。手術した人でも人工弁を使って、手術を行い前例の中でも二十歳まで生きた人はいませんでした。

 この私が今生きていられる、命を救った下さった先生は、木谷正樹先生といって、医師を定年なさった今でも私の心の支えです。

 木谷先生は主治医と患者という立場でなく、子供の私なんかでも一人の人間として接して下さいました。だから子供の私にも分かるように病気の内容をはっきりと分かりやすく説明してくれました。木谷先生は、誰にでもそうです。

 だから、木谷先生に初めて診てもらった患者さんや親たちは泣いて診察室から出て来たものです。

 木谷先生は良いことも、悪いことも言われるので極めつきの言葉は、「そんなことをしていたら死ぬぞ」とはっきりと言うのです。

 私は小学生ながらに外来から泣いて出て来る母親に、「大丈夫、先生は口は悪いけど腕はいいから」って生意気に話していました。

 私は六歳と十二歳に手術をしました。その間には、何十回も数えられないくらいのカテーテル検査で入院しました。

 十二歳の大手術の時は東京と千葉から先生を呼んで命がけの手術をしました。

 そんな入院生活の中でも、木谷先生は看護師にも怒っていました。「そんなんでお前は学校で学んで来たんだ」とか。看護師も子供の私の前で泣いていました。そんな時は、私の生意気に「先生に怒られたら立派になるんだよ」って。そんな木谷先生は私にとって目に見えない心の信頼がありました。

 そして十二歳の手術の時のことは忘れもしません。

 夏休み中、宿題やプールや旅行など元気な友達は皆、楽しい日々を送る中、私は手術に向けて毎日つらい検査などをして、チョピリ不満な夏休みを送っていました。ある日、木谷先生の奥様が大きな紙袋を持って先生の部屋に来ていました。あいさつしてお話を聞くと、先生は私の手術のために何か月も家に帰らずに勉強したり、準備していてくださっていたとのことでした。私は急に涙が出ました。私は「絶対に生きるんだ。生きて手術室から出て来るんだ」と強く心に誓いました。

 友達が皆、夏休みの最終日、私は手術の前日の夜を迎えていました。

 忘れもしません。もう、消灯の時間が近づいていました。私と母は、心の中では不安を抱えながら、お互いに笑顔で話していました。

 その時、トントンと病室のドアのノックが聞こえて、「誰だろう?」とドアの方を見ると、木谷先生が入って来られました。

 私はビックリして、木谷先生の顔をジーッと見つめていると、先生が「明日はいよいよ手術だなぁ。助かる可能性は、0.1%しかない危険な確率の高い手術だけど、先生も全力を尽くすから、めぐみちゃんも頑張れ。生きる力を出せるのは、自分自身の生きようとする力が一番必要なんだからな。頑張るんだぞ」と言ってくれました。それも、今まで十二年間見せたことのない、優しい笑顔で先生は私に言いました。

 そして、先生は大きな温かい手を出して「握手しよう。そして、先生も頑張るから、めぐみちゃんも頑張って、生きて手術室から出て来るんだぞ。分かったか。約束だぞ」って言いました。

 私は力強く「先生、頑張る。絶対に生きて手術室から出て来るからね」と答えてました。

 先生の目には、うっすらと光るものが見えました。

 私はベッドの上で手をついて、「先生、明日はよろしくお願いします」と言って寝ました。

 いよいよ手術室に入ると先生は待っていました。カチャカチャという器具の用意の音の中で先生が「よし頑張れ本番だぞ。生きて元気になるぞ」と言い、麻酔がきいて、次に私が目を覚ました時はICUでした。意識もうろうの中、先生の足音だけは、はっきりと私は分かりました。先生は私のホッペを二回程たたいて、「ホラ目を開けて自分の口でご飯を食べるんだ。食べないと力がつかないから食べろ」って、スプーンを持って私の口の中に入れてくれました。それから毎朝六時に先生の足音で目が覚めてICUから出る時は、先生との約束でピンクレディーのUFOを歌いました。先生は「よく頑張ったぞ」と褒めて下さいました。それからもしばらく頑張って治療に専念して退院の日を迎えた時に、先生も大喜びしてくれました。もうじき四十歳になる私ですが今でも九月一日になると先生に連絡して喜びや思い出を話します。

 先生は、私にとって医師というより、人生そのものの支えの大切な人です。


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