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小学生の部
<佳 作>
「お兄さんに約束したぼくのゆめ」
伊佐 碩恭(8歳前橋市・小学2年)


 ぼくの目の前を海でおぼれたわかい男の人が、たんかではこばれて行く。身体は青白く、手足はだらんとしている。とてもおそろしい。こわい。さっきまで浜辺であそんでいた赤い海水パンツのあのお兄さんだ。しょうぼうたいいんが心ぞうマッサージをしている。医者をしているお父さんもマスクで人こうこきゅうを手伝って、きゅうきゅう車に入って行った。

 ここは、お母さんの生まれた町の海だ。お母さんやおばあちゃんが子供の時にあそんだぼくも大すきな海。

 お父さんは、
「心ぞうはすでに止まっていて、エーイーディというきかいを使っても心ぞうの動きはもどらない。だいぶ時間がたっているから、生きかえるかのうせいはほとんどない」
 と言った。

 お兄さんは、お友だちといっしょに海水よくに来て、ゴムボートであそんでいた。ほかの二人は岩にしがみついて助かったけど、あのお兄さんだけは、ボートをとりに行っておぼれてしまった。きっとゆうかんなお兄さんだったんだ!

 お母さんが、けいたいでん話でしょうぼうしょにでん話した。けいさつかん、しょうぼうたいいん、ジェットスキーにのったレスキューたいいんがつぎつぎにやって来た。ぼくはし力がわるいので見えなかったけど、ときどき、お兄さんの手や顔が見えると、みんなが大きな声で、

「あそこにいる!」

 とさけんでいた。がけの上で、しょうぼうたいいんがピンクのけむりを出した。あとで、(はつえんとう)というものだとお父さんに教えてもらった。すごい音が頭の上のとおいところから聞こえてきた。ヘリコプターだ。そのピンクのけむりを目じるしにここに来たみたいだ。今までおよいでいた人もたくさんあつまってきた。(たすかるかな?)ぼくの心ぞうのドキドキがだんだん早くなってきて、夏なのに寒くなってきた。ヘリコプターがお兄さんを見つけたみたいだ。ヘリコプターからロープで下りてきたたいいんが、お兄さんをかかえて浜につれてきた。(ごぉーっ)というものすごい音と風でとばされそうだった。

 後からニュースで見たら、あのお兄さんは、なんとぼくと同じ町にすんでいる外国人だった。きせきはおきなかった。

 お兄さんがおぼれてしまって、お友だちが大きなこえでないていた。お父さんもお母さんもほかの人たちも、みんなかなしい顔をしていた。ぼくだってずっと心ぞうのドキドキが止まらなかった。

 人が死ぬということ、この時までよくわからなかった。おばあちゃんが死んでしまった時、ぼくはまだ二才だったし、しばらくの間こわくてこわくてたまらなかった。あれから海には行けなくなった。大好きなジェットコースターにものれなくなった。ベッドで思い出した時なんて、あつかったけど、おふとんをぐるぐるまいてねたんだ。

 ぼくは、小さいころから、なんとなく(お医者さんになりたいな)と思っていた。人だけじゃなく動物やムシのお医者さんになるのがゆめで、よくそんな絵をかいていた。あの時、ぼくの気持ちはかわった。なんとなくじゃなく、ぜったいに病気やじこで大へんな思いをしている命を助けたい!って。こわいこわいじゃ助けられないから心もうんと強くしたい!って。

 ぼくは、
「いつかみてて、こまった命をぜったいに助けるお医者さんになるから!」
 って、天国のお兄さんに約束した。

エーイーディ=AED(自動体外式除細動器)


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