日医ホーム心に残る医療 >>サイトマップ  


一般の部
<入選>
「生きついている」
菅中 沙都姫(30歳)福岡県北九州市・看護師


 「おはようございまーす!! 今日も天気いいですよ!! カーテン開けますね!!」。私は夜勤明けの朝、いつもこのセリフで病室を回っていました。現在29歳、看護師、医療を提供する側の人間です。

 今まで、たくさんの患者様と接し、たくさんの病気を見てきました。そこには、苦しい程のドラマや、表せない程の感動があり、それは、いつも私の心に衝撃を与えていました。  そんな中で、今でも私の心の中に大きな傷跡を残している、一人の患者様との出会いを書きたいと思います。

 私が総合病院の外科にいた頃の話です。病棟の廊下のつき当たりの個室に、20代の男性が入院していました。彼の病名は「胃癌」。手におえない状態で、若さゆえに進行が早く、気付いた時はすでに末期でした。抗癌剤はほとんど効いておらず、痛み止めのモルヒネで毎日をなんとか過ごしていました。

 彼はとても気丈な人で、会社の上司や同僚の方が面会に来ると、辛い顔一つせず、弱音一つも言いませんでした。とても優しい笑顔で話をしていました。それは、私達看護師に対しても同じでした。

 病室へ回り、病状の確認をすると、「痛いですね。大丈夫です。我慢出来なくなったらナースコールを押します」と言うのです。いつものように笑顔で。もうすでに、我慢出来ない程の痛みがきているはずなのに。そういう返事が返ってくる度に、こみ上げてくる涙をおさえるのに必死でした。すでに彼には、余命が宣告されていました。あと、一ヶ月でした。

 そんな彼が、一度だけ、私に弱音を吐いてくれた事がありました。ある夜勤の夜です。深夜零時すぎ、彼の病室からナースコールが鳴りました。駆けつけると、彼はベッドに横になりながら、「すみません看護師さん、少しだけ、いいですか? 本当は、すごい怖いんです。毎日、すごい怖いんです。朝が来るか不安で、眠れないんです。朝が来る度に、『あ…生きてた』って思うんです。…看護師さんにお願いがあるんです。いつも、朝、元気な声で挨拶して、カーテンを開けてくれますね。僕が死ぬまで、続けてくださいね。あの声で、僕に、『今日も生きてるよ』って教えてくださいね」と、言ったのです。私は初めて、患者様の前で号泣しました。

 次の朝、私は、いつものように、「おはようございます!! 天気いいですよ!! カーテン開けますね!!」と、大きな声で言いながら、彼の病室に入りました。ただ一つ、いつもと違ったのは、私が涙をこらえきれず、声が震えていた、という事でした。

 その日、私は帰る前に、彼に一枚のメモ用紙を渡しました。直接言わなかったのは、言葉にすると、きっと私が泣いてしまうから。モルヒネで眠っている彼の横に、そっとメモ用紙を残して帰りました。

 そのメモ用紙には、「人はみんな、誰でも、一秒ずつ死に向かっているけどね。それは、一秒ずつ、生きついてるって事なんだよ。生きているって事なんだよ」と書きました。

 それから数日後に、彼は亡くなりました。でも、彼は間違いなく、今でも私の心に生きついています。

 今、自殺や他殺、「命」がとても軽く扱われている気がします。この地球上には、生きたいのに、どうしようもなくて、命を亡くしていく人がたくさんいるのです。もっと、もっともっと、「命」を大切にしてほしいと願うばかりです。


BACK >>>

  日本医師会ホームページ
http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association.
All rights reserved.