日医ホーム心に残る医療 >>サイトマップ  


中高生の部
<優秀賞>
「若きラララの悩み」
寺本 ららら(東京都小平市・18歳・高校3年)


 私は今、車椅子と杖で単身オーストラリアへ留学している。青春真っ只中なのだけれど、独りで生活するということは脳性マヒで障害者手帳二級の身体に超一級の負荷が掛かっているということだ。人生が障害物競走だなんて冗談じゃないよと思うけれど冗談ではなく、本当に、私はこんな身体なのである。

 だから学校の長期休みの度に日本へ帰国し、東京から名古屋にある病院まで行ってリハビリを受けている。お世話になっている前田先生は、花も恥じらう十八歳の私から見てもかなり魅力的なオジサンだ。どことなくひょろっとしているけれど、心はひょろひょろなんかしていない。物凄く誠実なお人である。先生の笑った顔が可愛いと思っているのはトップシークレット。今回よりによって新聞社のコンクールで暴露したっていうのは最高機密!

 だだっ広い部屋の中、いくつも繋げられた黄色いリハビリ台の隅っこで正座をしておとなしいふりをしている私に、先生がカルテを広げながら質問。

 「えーと、患者さんひとりひとりに努力目標を聞かなきゃいけないことになってるんで、できるようになりたいこと教えて」

 若きラララの望みは、「男の子と立ってキスすること!」。目を輝かせて即答する。至って真剣だ。膝が曲がっていては、大好きな人と巡り合っても立ってキスが出来ない。

 「ひえぇ、もうちょっと書きやすいこと言ってくれ……。これ、診察記録に残るんだぞ」。先生は冷や汗をかきながらも「それじゃ、膝を伸ばさにゃいけないな。若いって良いねぇ」と笑顔でカルテに書き付けてくださった。

 以来、四つんばいのまま腰を振って股関節を軟らかくするとか、横座りのまま左右に重心を移動させるとか、自分で無理なくできる運動を教えてくださっている。「続かないと意味が無いからね」って。スジ硬い、膝は伸びない腹筋無い。そんな身体だけど、どうしたら私が続けられる形で身体のメンテナンスができるかずっと考えてくださっている。子供の頃は小児科で、痛くて拷問のようなリハビリをやらされ続けたから、こうして知恵を出してくださるのは本当に有り難いことだった。

 それは分かっていたけれど……。

 「アレを使うのが良いかも知れんなぁ」と探し持ってきてくださったのは半透明の装具。肌色のベルトが付いている。足にゆっくりはめられた。「もしキツいようだったら寝る間だけでも良いから、試しにはめてごらん。今ちょっとだけはめて様子を見ようかね。慣れないうちは擦れて足が赤くなるかも知れんけど」

 嫌だ、こんなの絶対に履きたくない! ただでさえ足首までがっちり固めたベルトの革靴しか履けないのに! ラメ入りのハイヒールも夏祭りの下駄も履けたことなんか無いのに、寝るときまでこんなのはめて過ごさなきゃいけないの?! 若きラララの涙、止まらない。病院で泣くなんて、子供じゃないっていうのに。声は出さないようにしていたけれどバレないはずも無く聞かれてしまった。

 「なんで嫌なんだ?」

 「……ダサいから」

 ……あぁ、罪悪感。それでも、それが正直な気持ちだった。それだけが、理由だった。この装具より私の足のほうがよっぽどダサいんだから贅沢を言える身体じゃないって分かってるのに。先生が私の身体に合うと思ってるから薦めてくださったのになんと罰当たりなことを言ったんだろう。若きラララの悩み。

 「そりゃ、ダサいのは嫌だわなぁ」

 怒られると思ったのに、怒らなかった。身体のためなのにダサいとは何だって言われるかと思ったのにそんなことは一言もおっしゃらずに、ただ、のんびりした声で。気持ちを受け止めて貰(もら)えてとても嬉(うれ)しかった。でもだからこそ、悲しくなった。こんなに良い先生に私は何をしてしまったんだろう。自分の足以上に、自分の根性が嫌いになった。

 先生は、小娘の身の丈に合わない我侭(わがまま)にもめげずに早速、新しい方法を教えてくださった。 「じゃー、別の方法でやるかね。ハイ、足出して。右足あぐら。動いちゃうなら左足の腿(もも)乗っけて押さえて。ここ、腿に骨あるだろ? 骨のこっち側を、手で押す。分かる? 踊りをやってる人に教えてもらったんだけどね、ダンサーはこうやって身体をほぐすんだって」

 分かりました先生。私は逆立ちしてもダンサーにはなれませんしそもそも逆立ちができませんが、明確な目標を持ってストレッチに励みたいと思います。いつか高いハイヒールを履いて青い目の男の子とキスします。若きラララの宣言です。ダサいなんて自分にも他人にも言わせませんから、見ていてくさい!


BACK >>>

  日本医師会ホームページ
http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association.
All rights reserved.