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中高生の部
<優秀賞>
「笑顔が似合う、立派な看護師になる」
江川 愛(17歳)大阪府茨木市・高校2年


 私は別に、それほど看護師になりたいとは思っていなかった。ただ、手堅い職業だと周りの大人が言うものだから、半ば仕方なしにこの道を選んだのである。

 看護に対する情熱も湧かないまま全寮制の看護学校へ入学し、迎えた病院での体験学習(アルバイト)は、さらに元から低い意欲を低下させた。勤め先は老人精神科で、患者さんのほとんどが俗に言うアルツハイマー病であると思われる。「看護師さん」と呼び止めている患者さんを、忙しいからと平気で無視するし、おむつ交換の時の羞恥心に対する配慮もあったものではない。「臭い」だの、便の内容だのを大声で言う看護師は、多分、誰から見ても良い看護師とは言えないだろう。

「こいつ、どこへ連れて行ったら良いですかね」
「○○さんが頭痛がするっつったんですけど……」

 揚げ句の果てにはこれか。病棟の看護師の発言を、環境整備をしながら聞いてしまった私は、思わずモップを動かす手を止めた。腹が立った。そして、呆れた。患者さんのことを「こいつ」呼ばわりする人が、目上の人に対する言葉すら話せないような人が、看護師だなんて。

 体験実習を重ねても、看護に対する思いは強くはならなかった。あの看護師の発言を聞いたせいでもあるだろうし、業務的に仕事をこなす看護師らの後ろ姿に「優しさ」や「思いやり」を感じることが出来なかったからである。学校で教えてもらっている看護とはまるきり違っている。「機械的になってはいけない」「患者さんのことを第一に考える」……、私が体験学習で見ている看護は、患者さん中心でなく看護師中心になっているように思えてならない。きっと他にはちゃんと学びとれる所もあったのだろうが、悪い部分しか見えてこなくなり、大切な学習の場も、いつの間にかマンネリに過ごすようになっていった。

 寮も変わった高校2年、新しい環境に慣れていなかったせいか体調を崩し、肺炎になってしまった。当然、体験学習に行っている学校近くの病院に入院決定である。
「よくここまで我慢してたね、肺が真っ白やったよ」

 笑顔で迎えてくれたのは一般病棟の師長さんである。すぐに病室へと案内され、寝衣に着替えてベッドにもぐりこんだ。見慣れた構造の病室である。患者の立場となった私が少し変に思えた。
「氷枕解けてない? 替えてこようか?」
「咳がひどいね、眠りづらかったらお薬出そうか」

 だんだん良くなっていく体と共に、看護師というものへの考え方が変わった気がした。心のどこかであら探しをしていた自分が馬鹿らしくなり、同時にこれが本来の看護なのだと思った。真っすぐに看護師の仕事、表情を見られるようになると、少しずつ「優しさ」や「思いやり」を感じられるようになったし、看護師さんたちの笑顔は、患者である私を安心させた。

「看護師って、やっぱり大変ですよね」
 体調も大分落ち着いたある日、私は訊ねてみた。担当の看護師さんは私の左腕に刺さる点滴の滴下を調節しながら答えた。
「大変やけど、やっぱりやり甲斐があるよ。看護師の免許をとったらここの病棟に来たらええ。仕事が忙しいから体も引き締まるよ」

 そう言いつつにっこりと笑顔である。忙しく、大変なことは伝わったが、それを苦にしていないように思える表情だった。「じゃあ、点滴終わったら呼んでね」。そう言って出ていった看護師さんの後ろ姿を見て、何だか、看護師を本気で目指してみたいと思った。

 笑顔が似合う、立派な看護師に。


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