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小学生の部
<優秀賞>
「笑顔のためにはたらく母」
清水 千夏(8歳)東京都武蔵野市・小学2年


 私は、時々「病気になりたいなあ」と思う事があります。学校は大好きです。休みたくありません。でも、たまにふとそう思ってしまうのです。

 私の父と母はお医者さんです。父も母も私が寝た後、夜中まで、たまに明け方まで仕事をしています。患者さんの具合の悪い時には家にもどれません。父と母は子供の事はそっちのけで癌の話ばかりしています。土曜日と日曜日も学会だとか研究会とかで家にいない事が多いです。だから「私が病気になったら、やさしくそばにいてくれるのかな?」と思ってしまうのです。もちろん、私が病気になっても母はそばにいてくれるわけではありません。が、時間を見つけては、「大丈夫?」ととても心配してくれ、いつもよりもずっとやさしくしてくれます。

 それともう一つ。私はピアノを習っています。母は私に「勉強しなさい」とはぜったい言いません。でも夜仕事からかえってくると「さぁーチーちゃんピアノの時間よ」と言います。小さい時から自分もきびしいレッスンを受けただけに、母は大変こわくて、こう言う時に「病気になりたいなー」と思うのです。つまり、たまに会うのだからやさしくしてくれてもいいのに、やさしいばかりではないのです。

 母の患者さんで私の知っている人がいます。その人は朗読家で、時々私に手紙と一緒に絵本を送ってくれます。私はある時その人に「千佳子先生はやさしいですか?」と質問の手紙を書いた事があります。「お母さまはとてもやさしいですよ。おかげで私はこんなに元気になりました。私は千佳子先生が大好きです」と返事がかえって来ました。その返事を読んだ時、その人が母の治療をとてもよろこんでいる事が分かって、うれしくなりました。やっぱり私はがまんしなくちゃいけないのかなぁ。

 ある日、家の本棚に、突然、癌にかかってしまった女性が亡くなる前に結婚式をあげるお話の本を見つけました。本といっても子供用にマンガになっています。私がその本を読んでいると、母が「よかったら本の一番後を見てごらん」と言いました。なんだろう、と思って見てみると、なんと母の名が本の後にのっていたのです。私はびっくりしてしまいました。その人は母の患者さんだったのです。

 私は、母に「この本のことクラスで発表していい?」とたずねました。母はちょっと考えていましたが、「いいわ」と言いました。いつもは見ることのない、はずかしそうな顔でした。

 本の中に「明日が来ることはきせきです。それを知っているだけで日常は幸せなことだらけです」(*)と言う言葉がありました。私は命があれば毎日が幸せなどと考えた事がありませんでした。それに気がつく事が大事なのだ、とクラスのみんなに伝えました。

 母は癌になった人が、元気で退院していくと「よかったー」と心からうれしく思うそうです。母の仕事の大変さが分かるようになって、病気になりたいな、と思ったことが、少しはずかしいです。それに大変な中、私のお弁当だけはかならず作ってくれる母は本当はやさしいのだ、と言う事も分かりました。

 私も熱がでると病院に行きます。お医者さんの言うことをまもって、薬をのむと元気になります。だから、お医者さんがとても大事な仕事だと言うことは分かっています。でも私はしょうらいお医者さんになりたくありません。なぜならお医者さんはずっと子供のそばにいられないからです。

 私の夢はファッションデザイナーになることです。でも、よく考えて見ると、お医者さんじゃなくても一生けん命仕事をしていると、いそがしくて子供のそばにいられなくなるのかな?

 私はいのちと向かいあって、患者さんたちの笑顔のために働く母の仕事を、とてもかっこいいと思うようになりました。だからお医者さんにはならなくても、人に笑顔があげられるような仕事をしたいと思います。

(*)『余命1ヶ月の花嫁』(TBSテレビ報道局)


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