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平成28年(2016年)1月20日(水) / 南から北から / 日医ニュース

夢と現実

 「残りは?」との問いに、「ピンまで135ヤード少しの向かい風です」。キャディーが答える。Tカントリークラブ東6番、370ヤード左ドッグレッグ。ピンを目がけて、7番アイアンを振り抜くと、わずかにカーブを描きピンに寄って行く。今年は、こんな夢を見たいと思っている。しかし、実際のゴルフは、苦行の連続である。
 Tカントリークラブ東1番。今日こそはと、ティーグラウンドに上がる。右を向く癖があるのを注意しながら、ティーショット。その時である。静かなゴルフ場に大きな声が響き渡る。「ファー、ファー」。この声を聞くと、絶望の淵へと追いやられる気持ちになる。同伴者の一人は見なかったように下を向き、もう一人は、目に哀れみを浮かべ、最後の一人は、慰めの言葉を探している。
 私は、一目散にボールの落ちた方向に走る。5、7番アイアンを抱えてである。
 先に他の人に探されてはいけない。わずかな自尊心である。フェアウェーは光り輝いているが、林の中は薄暗い。上級者にはなかなか見つけられないボールでも、トラブルに慣れている身には、たとえ落ち葉に隠れていてもすぐに見つけられる。何事も経験である。
 さて、問題は次の一打である。横は、木々が邪魔して難しい。後方に打てば、楽にフェアウェーに出すことができるが、ゴルフは前にボールを打つスポーツと理解している身には許されない。下手には下手の矜持(きょうじ)がある。前方を見れば、木々の間にわずかな空間がある。その先にバンカーが見えるが、低い球を強く打てば何とか抜けられる。
 5番アイアンを手にし、低い、小さなバックスイングで打った瞬間、「カッキーン!」の音。何とボールが目の前を後方に通り過ぎフェアウェーに戻って(?)行く。嗚呼!
 さて、さて、問題は次の一打である。残りの距離を聞くにはまだ早い。いや、恥ずかしくて聞けない。ここで取り出したのが、得意のUT─5である。思い切って旗を目がけて振ったが、不幸はすぐそこにあった。昨日の大雨ですっかり水分を含んだ大きなバンカーに打ち込んだのである。「ファー」の声で絶望の淵に追いやられている身は、地獄の世界に落ちたのである。砂にまみれたボールは、黒い雪だるまのようになっている。同伴者からは、普段の3倍の力で打ち出せとのありがたい忠告、思い切って打ち込んだ! 黒いボールは出たのであるが頭から砂をかぶることになってしまった。もう泥だらけである。ゴルフに来たのか、芋掘りに来たのか分からない。
 さても、さても、問題は次の一打である。残りは110ヤード。またしても得意のピッチング。風は、わずかにフォロー、気持ちよく振り抜いたボールは、高い弾道を描きながら、見事にグリーンON。だから、ゴルフは、やめられない。
 ゴルフの上達は、名人とラウンドすることと聞いたことがある。ただ、これもこちらの腕の程度の問題である。ゴルフを始めて多くの友人が、私のもとを去って行った。悲しいばかりである。しかし、残った友人を見ると、多士済々である。
 ティーショットを打った途端、ボールがティーグラウンド横のヤードエージの看板に当たり、自分目がけて飛んできて、ひっくり返ったり、スライスするからと言って極端に左を向いてアドレスし、左に打ち出したボールが、右に曲がる前に木に当たり残念がったりしている人。また、アドレスしている時に、「横に大きな池がありますね」と話し掛けると、必ずシャンクして池に入れる人。楽しい人ばかりである。
 最近は、人に迷惑を掛けないことをモットーに女房と出掛けることが多い。彼女のゴルフの腕前は、打数カウンターが2つ要るほどである。しかし、彼女の得意は、ボール探しである。私が例のように林に打ち込めば、猟犬のように脱兎のごとく林に入り、最低でも3つのボールを持ち帰る。池に打ち込めば、棒すくいで、釣り名人のようにボールを回収してくれる。それも2つは持ち帰ってくれる。だから、私は、打ち放題である。ありがたい。

(一部省略)

東京都 目黒区医師会会報 第232号より

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