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平成28年(2016年)8月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

夏休み昼下がり

 「きんぎょ~え、きんぎょ」
 「ひやしっこぇ」
 家の前を通り過ぎる声。薄目を開けると、すぐ近くに父と弟がすやすや。次の間には祖父が。通りは、真っ白な日の光。しかし、開け放たれた座敷には弱いが心地よい風が。
 奥から、かちゃかちゃ じゃーに混じって、母と祖母の声。まだ、2時半。あと30分か。でも、どんどん頭が冴えてくる。
 今日は、何蝉が捕れるかな。ミンミンがいればいいのに。昨日みたいにアブラばかりではしょうがないな。カナカナはまだ先だろうな。
 柱時計が三つ打った。父ががばっと起き、支度を始める。ステテコの上にズボンをはき、パナマ帽。大きな鞄を荷台にくくり付け、ラビットスクーターでさっそうと出発した。今日は何軒くらい往診があるのだろうかと見送りながら、眠そうな弟に虫かごを持たせ、網を担いで村鎮守の森目指して飛び出した。母の「暗くならないうちに帰るのよ」、祖母の「帽子被っときや」を背に受け、「わかった」。
 目を閉じれば、昭和30年代前半の夏休みが浮かぶ。

奈良県 奈良県医師新報 第763号より

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