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平成28年(2016年)8月5日(金) / 日医ニュース / 解説コーナー

「まちづくり」「人づくり」「組織づくり」を基本方針として医療再興に向けた新たな一歩を踏み出す

「まちづくり」「人づくり」「組織づくり」を基本方針として医療再興に向けた新たな一歩を踏み出す

「まちづくり」「人づくり」「組織づくり」を基本方針として医療再興に向けた新たな一歩を踏み出す

 今号では、6月25日に開催された第137回日本医師会定例代議員会で会長に選任・選定され、3期目を迎えることになった横倉義武会長に、会務遂行に当たっての3つの方針の意味や、医療に係る諸問題に関して、現時点での考え等について話を聞いた。
(聞き手:道永麻里常任理事 7月6日会長室にて)

 道永 まずは、会長としての2期4年間を振り返って、感想などをお聞かせ下さい。
 横倉 「継続と改革」「地域から国へ」というスローガンを掲げ、会長に就任してから約4年、さまざまな社会の変化を実感しながら、会員の皆様を始め、多くの方々のご支援とご協力を頂きながら、会務に邁進(まいしん)して参りました。
 また、社会保障の議論に当たっては、「国民の安全な医療に資する政策か」「公的医療保険による国民皆保険は堅持できる政策か」という2つの判断基準の下で、保健・医療・福祉における主導的立場を担い、「国民と共に歩む専門家集団」として、常に高い見識をもって変革に当たって参りました。
 この4年間は、次から次へと問題が現れ、日々その対応に追われていましたので、今から思えば、あっという間の4年間でした。
 道永 前期2年間で特に印象に残っていることはありますか。
160805a3.jpg 横倉 今年4月に都道府県医師会を実施主体として「日医かかりつけ医機能研修制度」を開始できたことは、大変大きな出来事でした。
 本制度は「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上するために開始したものですが、5月に日医会館で開催した「日医かかりつけ医機能研修制度 平成28年度応用研修会」には、テレビ会議での受講者を含めて全国で約6000名の先生方に受講して頂きました。まだ受講されていない先生方にはぜひ、受講して頂きたいと思います。
 また、前期の医師会組織強化検討委員会が取りまとめた提言を基に、研修医の会費減免(無料化)を実施できたことも大きな成果であったと思っています。減免の効果は、昨年12月1日現在の日医会員数調査においても一定程度表れてきており、今後の推移を見守っていきたいと思います。
160805a2.jpg 個人的には、平成27年4月にダライ・ラマ法王を日医会館にお招きできたことも大変印象に残っています。医療者を「人の苦痛を除き、人のために尽くす菩薩のような人」と言って頂いたことなどは、今でも忘れることができません。
 道永 今期の会務についてですが、先の第138回臨時代議員会の所信表明で、会長は3つの方針を掲げていました。改めて、その意図などをご説明頂けますか。
 横倉 私には、変わらず持ち続けている一つの思いがあります。
 それは、国民の健康寿命を世界トップレベルにまで押し上げてきたわが国の医療システムが、世界が経験したことのない高齢社会を"安心"へと導く世界モデルとなり、この優れた医療システムを世界に発信することで、世界中の人々の幸福の実現に貢献したいという思いです。
 そのために、今回、"かかりつけ医"を中心とした「まちづくり」、変革期を担う人材育成の視点にたった「人づくり」、そして、医療政策をリードし続ける強い医師会への「組織づくり」の3つを基本方針とすることとしました。160805a5.jpg
 また、この基本方針に対して、Action、Balance、Challengeという3つの基本姿勢で臨むことにより、医療再興に向けた新たな一歩を踏み出したいと考えています。
 まず、"かかりつけ医"を中心とした「まちづくり」に関してです。
 現在、わが国では各地で過疎化が進んでいますが、そんな過疎地においても、国民が住みやすいまちづくりを進めていきたいと思っています。
 具体的には、第7次医療計画を見据え、地域包括ケアの仕組みの中で、機能分化された医療提供体制がまちづくりに資するものになるよう、各地域の医師会との緊密な連携を通じて支援していきたいと考えています。
 また、かかりつけ医の重要性が増していく中で、真に国民が求める、かかりつけ医機能を充実させ、地域包括ケアや在宅医療推進の大きな流れに沿う取り組みをより強化していきたいと思います。
 更に、4月に発生した「平成28年熊本地震」のような大規模災害や感染症パンデミックなど、さまざまな局面に迅速に対応していくため、JMAT活動を深化させるとともに、地域の自治体・医師会が県内・外を問わず相互に支援できるような体制づくりも進めて参ります。
 次に、変革期を担う人材育成の視点に立った「人づくり」についてですが、医療の進歩などによって、これからの医療は変革期を迎えます。そのような中で、どういう人材が必要なのかを考え、それに沿った人づくりに取り組んでいきたいと考えています。
 中でも、時代の要請に応じた、若手医師の育成とその成果を引き出すための環境整備は大変重要な事項です。日医では、全国医学部長病院長会議と共に医師の養成と配置に関する提言を取りまとめましたが、今後も生涯教育制度の充実を図りつつ、日本医学会や関係団体とも協議を重ね、より良い医師育成のあり方についても議論を深めていきたいと思います。
 3番目の「組織づくり」についてですが、地域包括ケアの構築が進められる中で、各地域では医師会と市町村行政との協力関係が強固になってきています。そういう状況を踏まえ、更にしっかりとした組織づくりを進め、医師会を真のプロフェッショナルな集団に変えていきたいと思っています。
 組織強化に向けた取り組みはさまざまあると思いますが、昨年、広報委員会で行った調査によれば、「日本医師会という名前は知っていても、何をやっているのか分からない」という声が多く挙げられていました。
 まずは医師会の活動を知ってもらうことに力を入れていくとともに、既に実施している研修医の会費減免や大学での講義等の充実に加えて、会員のニーズの把握にも引き続き努めていきたいと思います。
 また、これまでも独自の情報収集・分析に注力してきましたが、今後の医療提供体制を見据えた上で、その機能の更なる強化に努めると同時に、地域の医師会の情報収集・分析を支援する方策についても検討していきたいと考えています。
 道永 人づくりに関して言えば、新たな専門医の仕組みの問題もありますね。
160805a4.jpg 横倉 この問題は、元々、医師のプロフェッショナルオートノミーをもって、国民に更なる安心を約束するための取り組みのはずでした。
 しかし、当初の案のままでは、指導医を含む医師及び研修医が、都市部の大学病院など大規模な急性期医療機関に集中し、地域偏在が更に拡大する懸念が強く、このままでは地域医療の現場に大きな混乱をもたらすのではないかと危惧する声が、多くの先生方から寄せられました。
 そのため、6月7日に四病院団体協議会の各団体の会長と共に緊急記者会見を行い、ここは一度立ち止まり、広く関係者の意見を聞き、地域医療を崩壊させることがないよう、十分配慮した上で、専門医研修を始めるべきとの考えを表明いたしました。
 新たな仕組みづくりに向けた歩みを止めるのも、また勇気がいることです。しかし、拙速さがもたらす混乱により、国民に迷惑を掛けるようなことは断じてあってはなりません。なぜなら、医療は国民のものであるからです。
 日本専門医機構も新たな執行部が誕生し、今後は、地域医療、公衆衛生、地方自治、更には患者・国民の代表による幅広い視点も加えて、早急な検討が進められることになりますが、日医としても地域医療を守る立場から意見を述べていきたいと思います。
 道永 専門医で言いますと、かかりつけ医と総合診療専門医の関係についてはいかがですか。
 横倉 かかりつけ医は、日本の医療提供体制の土台を支える最も重要な役割を担うものです。一方、総合診療専門医ですが、これはあくまでも学問的な評価によるものであると考えています。
 私は、総合診療専門医のカリキュラムを修了した医師には、かかりつけ医のマインドを持って頂きたいと思っていますし、日医としてもそれが可能になるようなカリキュラムを、生涯教育の中で提供していきたいと思います。

適切な医療が提供できる 報酬体系の構築を目指す

 道永 その他、会員の先生方の関心の高い事項について現時点でのお考えをお聞きしたいと思います。
 まず、「診療報酬・介護報酬の同時改定」についてはいかがですか。
 横倉 国の財政が厳しい状況にある中で、2年後に迎える「診療報酬・介護報酬の同時改定」は大変厳しいものになると考えられ、財務省などからは、昨今の医療費の伸びを理由として、大幅な診療報酬・介護報酬の引き下げが提案されてくることが想定されます。
 しかし、実際の医療費の伸びを見ると、2011年に税と社会保障の一体改革が話し合われた時、2015年度の医療費推計は45兆2000億円とされていましたが、実際には41兆6000億円に抑えられています。
 これは医療側の努力によるところが大きいと認識していますが、財政主導ではなく、医療側から医療費の適正化に向けた提言を引き続き行っていくことが重要であると考えており、生涯保健事業の体系化により健康寿命を延伸することや、学会が策定する診療ガイドラインにも、症状に応じたコスト意識をもった処方を掲載すること等を求めていきたいと思います。
 次期診療報酬改定では、超高齢社会に対応する上で最重要課題である地域包括ケアシステムの確立に向けて、全国津々浦々まで、かかりつけ医が中心となって医療と介護が連携し、国民に適切な医療・介護が提供できるような報酬体系を構築していくことが大事になると考えています。
 前回の改定では、認知症患者や小児へのかかりつけ医機能の評価を拡大することができましたが、外来機能分化の観点から、次回もその評価を求めていきたいと思います。
 また、それに加えて、「医学・医療の進歩に伴う新技術の保険適用」や「医師の基礎的な技術の再評価」など、医師の技術が適切に評価されるような働き掛けも、引き続き行って参ります。
 一方、介護報酬についてですが、高齢者がますます増加する中で、介護現場の人材確保並びに処遇の改善、更には認知症対策、中重度者への対応や多職種連携を推進していくことが重要になると考えています。
 今後は、その実現に向けて、制度の見直しや適切な報酬のあり方について議論していきたいと思います。
 道永 先頃見直された「医療事故調査制度」についてはいかがですか。
 横倉 制度は昨年10月にスタートしましたが、施行されて間もないために、十分な理解と経験に基づいた運用がなされているとは言えない状況にあったことは事実です。
 そこで、自民党のワーキングチームでの議論を基に、医療事故の報告や院内調査の実施判断に関する標準的な取り扱いについて、支援団体や医療事故調査・支援センターが情報や意見を交換する「支援団体等連絡協議会(仮称)」を国と各都道府県に設置することを制度化するなどの見直しが行われました。
 このことは、日医が以前より推進している取り組みとも合致するものであり、今後も、より良い制度となるよう、さまざまな提言を行っていきたいと思います。
 道永 6月1日には、安倍晋三内閣総理大臣が平成29年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを2年半再延期することを表明されましたが、「医療における消費税問題」についてはいかがですか。
 横倉 この再延期によって、社会保障費の財源の確保が大きな課題になっていますが、医療界の税制上の最大の課題である控除対象外消費税問題についても、「その解決が2年半先送りされるのではないか」と危惧する声も聞かれます。
 しかしながら、昨年12月、自民・公明両党が決定した平成28年度税制改正大綱では、『医療に係る消費税等の税制のあり方については、消費税率が10%に引き上げられることが予定される中、(中略)平成29年度税制改正に際し、総合的に検討し、結論を得る』と、この問題を解決する年限が初めて明記されたところでもありますし、増税時期が延期されたからといって、解決へ向かっての歩みを先延ばしするわけにはいきません。
 本年12月を目途に与党が取りまとめる平成29年度税制改正大綱において、問題解決へ向けた具体的な措置が講じられるよう、今後も活動を継続していきたいと思います。

医師の一番の仕事は 国民の健康・生命を守ること

 道永 これまでは日医の政策のことを中心にお話を伺ってきましたが、会長自身のことをよく知って頂くために、会長の生い立ちなどについてもお話し頂けますか。
 横倉 私は横倉家の次男として、福岡市で生まれました。ちょうど、第二次世界大戦の真っ只中で、生まれてすぐ福岡に大空襲があり、母親は私を抱いて防空壕に避難したという話を聞いています。
 その後間もなく、母の実家のある大牟田に一家で疎開したのですが、軍医であった父は、そこで診療をしていました。終戦を迎え、父がいざ福岡に帰ろうとした時に、村には若い医師がいなかったため、村に残って欲しいと言われ、村議会では残留を求める決議が出されるほどでした。結局、父はそこで診療を続けることになり、私もそこで幼少期を過ごすことになりました。
 当時は国民皆保険もありませんでしたから、医療費を払えずに困っている人をたくさん見ました。国民皆保険は絶対に守らなければならないという想いは、その経験があるからこそ、生まれたものと言えます。
 道永 そんな中で、医師を目指すきっかけは何だったのですか。
 横倉 高校3年の夏に自分が盲腸炎になった時に、外科医の叔父に助けてもらったのですが、その時に自分も医師になって人を助けたいと思うようになりました。
 医師になろうと決意したのが夏でしたので、9月から猛勉強を始め、何とか久留米大学医学部に合格することができました。
 道永 会長が若い時に影響を受けた方はいますか。
 横倉 中学生の時に、野外活動を指導してくれた先生です。先生には、後に趣味となるスキーなども教えてもらいました。
 先生は私にとって人生の師であり、先生がいたからこそ、今の私があると言っても過言ではありません。
 大学に入ってからもたくさんの方にお世話になりましたが、あえて言えば、ラグビー部の顧問だった先生ですね。先生は、人類に奉仕する気持ちが強く、アフリカで医療活動に従事したアルベルト・シュヴァイツァーにも会いに行ってしまうような人でした。先生からは、医師としてのあり方などを学びました。
 道永 医師会と関わるようになったのは、いつ頃からですか。
 横倉 私は次男でしたし、病院を継ぐこともないと思っていました。そのため、外科医としての技術を向上させようと、大学の紹介で西ドイツのミュンスター大学教育病院デトモルト病院外科にも留学していましたし、今の若い先生方と同様、若い頃は私も医師会にはあまり興味はありませんでした。
 しかし、突然、父から「帰って来て欲しい」と言われ、父の病院を手伝うようになり、地域医療に携わることになりました。
 最初の頃は周りの地域の先生方から、「うちの患者を取るつもりか」と厳しい意見も頂きました。しかし、月2回、夜に会合を開いて先生方と話をしているうちに連携も取れるようになりました。今思えば地域の連携というものを考える上で、大変良い勉強をさせて頂いたと思います。
 そうこうしているうちに皆さんから、「まちの代表として医師会に行ってこい」と言われ、福岡県医師会の理事になったのが、医師会との関わりの始まりです。
 医師会の仕事をしているうちに、「医師会はこんな仕事までしていたのか」ということが分かるようになりました。医師会のことを知らずに医師会のことを批判する方もおられますが、そういう方達には、ぜひ医師会に入会して頂いて、内部から医師会を改革していってもらいたいと思います。
 道永 お好きな言葉は何ですか。
 横倉 「和して同ぜず」です。この言葉は、論語の中の言葉ですが、「人と協調はするが、道理に外れたようなことや、主体性を失うようなことはしない」という意味です。
 若い時分に、私は議論になるとすぐに「俺の方が正しい」と言って、反対意見はあまり聞かないところがありましたが、この言葉を知り、また、天台宗の高僧の山田恵諦氏が同じタイトルで書かれた本を読んだ時に、これではいけないと気づかされました。
 医師会の仕事をしていますと、どうしても政治家や経済界など、さまざまな方達と話をする機会が多くなりますが、意見が全く違う場合も出てきます。
 そういう時に、一方的に反対していたのでは話は進みません。相手の言い分を聞いた上で、我々の意見をしっかり主張し、まさに「和して同ぜず」で落としどころを探っていくことが大切であり、常にそのことを心掛けています。
 道永 ありがとうございます。横倉会長がより身近になった気がします。
 それでは最後に会員の先生方に一言お願いします。
 横倉 熊本地震の際には、多くの先生方にJMATとして被災地支援にご協力頂きました。改めて、御礼申し上げたいと思います。
 超高齢社会を迎えたわが国では、医療は国民にとってますます身近な存在になると思います。そのような中で、我々医師の一番の仕事は、やはり国民の健康・生命を守るということでありますから、会員の先生方には、ぜひ協力をお願いしたいと思います。
 道永 ありがとうございました。

横倉 義武会長(昭和19年生まれ、71歳)
昭和44年3月 久留米大医学部卒
昭和44年4月 久留米大医学部第2外科入局
昭和52年10月 西ドイツミュンスター大学教育病院デトモルト病院外科(~昭和54年10月)
昭和55年1月 久留米大医学部講師(~昭和58年3月)
平成2年4月 医療法人弘恵会ヨコクラ病院長
平成9年4月 医療法人弘恵会ヨコクラ病院理事長(~現在)

平成11年5月 中央社会保険医療協議会委員(~平成14年4月)
平成22年6月 社会保障審議会医療部会委員(~平成24年4月)

昭和63年4月 大牟田医監事(~平成4年3月)
平成2年4月 福岡県医理事(~平成10年3月)
平成4年4月 大牟田医理事(~平成16年3月)
平成10年4月 福岡県医専務理事(~平成14年3月)
平成14年4月 福岡県医副会長(~平成18年4月)
平成18年5月 福岡県医会長(~平成22年4月)
平成22年4月 日医副会長(~平成24年3月)
平成24年4月 日医会長(~現在)

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