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平成28年(2016年)8月20日(土) / 南から北から / 日医ニュース

どうしようもないある一日

 シュポシュポ、シュ~。私「血圧は120/70ですね」。患者「さっきと同じですね」。私「え? そ、そうですね(あれ、さっき測ったっけ?)」。
 暇な時に分散してくれればいいのに、患者の来られる時間は集中していて、その時はついつい焦ってしまい、自分の言動がおかしくなる。そして、ますます余計な時間を掛けてしまう。
 そういう時に限って、「レントゲンお願いしまーす」などと奥から呼ばれ、ハイハイと急に立ち上がり、つまずいて患者と抱き合い気まずい空気が流れる。気を取り直してレントゲンを撮り、急いで帰ってきて「ところで咳はどうですか?」と聞くと、「ですから、それで来院したんですよ」。あ、これが主訴じゃないか、何で落ち着いて話さないんだと反省。では胸の音を、と聴診器を耳に掛けようとすると眼鏡に引っ掛けてズルっと落とす。あ、今この患者見ない振りをした。絶対、間抜けな医者だと思ってるよな、と恥ずかしいながらも診療を続ける。「便秘は良くなりましたか」「は?」「......いえ何でもありません」。何やっているんだ自分は。これはさっきの患者のカルテじゃないか。急に便秘なんて言われたら驚くに決まってる。「いえ、その、咳止めで便秘したことはないですか?」「あ、それはありません」。ホッ、何とか会話が成り立った。
 さて、次の方。「最近、物忘れがひどくて」「そうですか? そういう感じしないけど」。一見普通のご婦人である。「いえ、相当進行してると思います」「分かりました。では簡単にチェックしてみましょう。すいませーん、手の空いてる方、ハセガワお願い」「あれまあ呼び捨てされた」。しまった、この方長谷川さんじゃないか、何でこういう時に省略しちゃうんだ。焦っている時こそ、長谷川式簡易知能評価スケールってきちんと言えばいいのに。
 シュポシュポシュポ。30点満点中16点しかないのか、そうは見えないけどな。「先生、痛いんですけど」。おっと、考え事してたら250ミリメートルエイチジーまで加圧してしまった。「すいません、血圧は大丈夫のようですね」「何だか私の血圧まで測っていただいて申し訳ないですね。母のことで相談に来たのに。それでは本人に入ってもらいますね」。だよね、この方娘さんだったんだ。おかしいと思った。もう恥ずかしくて生きていけない。
 こんな時はとにかく明るくいくしかない。「先生、今日もちゃんと糖尿病の薬入れといてね」「安心してください! 入ってますよ!」。どこかで聞いたような口調で何とか乗り切る。
 これ、全部本当のことである。こんなどうしようもない一日を過ごしたことはありませんか?

東京都 中野区医師会新聞 第582号より

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