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平成28年(2016年)9月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

もぐらの来襲

 昨年の8月頃、突然、もぐらが庭に移住してきた。ある朝、家内が庭に穴が数カ所開いているのを見つけた。漫画のようにもぐらの掘った、土の盛り上がった通路が何カ所もできている。
 彼らの巣は木の根を中心に、時に深さ5メートルくらいまで達することがあるとのこと。巣の中には、食料貯蔵庫を始めとして、居間や寝室などの用途に応じた間取りになっており、更には敵をだますために、偽の巣を作るそうである。
 このもぐら一家(もぐらは家族で生活しているようである)はどこから来たのだろう。家の北東に田んぼがあり、その南側、我が家と用水を挟んだ東隣に資材置き場がある。資材置き場の田んぼに面する側にはあぜがあったのだが、そこを整地してしまったのだ。恐らくそこで安穏に暮らしていたこの一家が家を追われ、うちの庭に引っ越してきたようである。
 田んぼをしている人に聞くと、「土の良いところにしかもぐらは住み着かないから、良かった」と言う。しかし、人の家の(人間が勝手に決めているのだが)庭を勝手に掘り返してできたトンネルのおかげで、庭木が傾くならまだしも、家の土台まで傾いたら大変なことである。「そのうち出て行くのでは」といった楽観的な見通しは、家内に却下され、直ちにもぐら撃退作戦が立てられることになった。
 まず、「敵を知り」である。インターネットで彼らの習性を調べてみると、夜行性で、食物はミミズなどの虫、音やにおいに敏感とのこと。
 始めは、市販の薬を使った。3袋から4袋買って、穴に直接、あるいは巣らしき場所を掘り起こし、そこに薬をまいてみた。薬は正露丸のような強烈なにおいがする。
 庭に漂う異臭にもかかわらず、翌日潰したはずの巣穴とは別のところに、ちゃんと穴が掘られている。新たにできた穴を潰して、薬をまく作業が1週間ほど続いたが、全く引っ越して行く気配を見せない。
 もぐら退治の薬が正露丸のようなにおいなのはなぜだろうか。それは木が燃えたようなにおいのため、動物は山火事が起こっていると錯覚するらしいのである。庭の木に火を付けるわけにもいかないので、木酢を水と一緒に大量にまくことにした。一種のにおい付水攻めである。部屋中が水浸しにされた上に、山火事のスモーキーフレーバーが立ちこめれば、もはやもぐらの住める環境ではないだろう。
 ある朝など、ひょっこり穴から顔を出したところに出くわし、すぐさま鍬(くわ)を持ってもぐらを仕留めようと、無謀な戦いに打って出た。もちろん人間に仕留められるほど鈍いもぐらなどいない。それに刺す方も「もぐらに本当に刺さったらどうしよう」などとびくびくしていたのでは、仕留められるわけがない。
 この死闘は夏の終わりにさしかかっても、決着がつかないようだった。何日も、効果の見えない退治薬や木酢を大量にまくわけにもいかず、せめてもの攻撃手段は、彼らが新築した巣穴を潰すことぐらいである。死闘は持久戦、こちらにすれば消耗戦の様相を呈していた。
 そんな諦めかけていたある朝、新しい穴が空いていないことに気が付いた。
 しばらくして、以前彼らのすみかだったあぜに、新たに掘ったらしい巣穴があった。うちの庭の居心地が悪く、近所の庭も、以前住んでいたあぜには及ばなかったのだろうか。それとも、整地で一次的に減った、ミミズなどの虫がまた増えて、住むのに適した環境に戻ったのだろうか。そうすると、うちの庭は仮住まい、放っておいてもやがて元のすみかに帰っていったのだろうか。いや、あの死闘の結果、こちらの知恵と努力が実を結んだと信じることにしようと思う。

(一部省略)

富山県 富山市医師会報 第534号より

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