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平成29年(2017年)5月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

『研修医なな子』と私

 「とにかく俺についてこい」
 「はいっ」
 恋愛漫画のセリフではなく、研修医を題材にした『研修医なな子』の冒頭のシーンである。指導医緒方先生に「ついてこい」と言われ、なな子はトイレまでついて行き、「トイレはいいんだ」と怒られる。指導医を追い掛け回しているうちにトイレについて行ってしまったことは、自分にも覚えがある。
 『研修医なな子』は1999年まで雑誌で連載されていた、研修医を題材にした漫画である。医学部受験で浪人していた時に、私はこの作品をよく読んだものだ。何度も何度も読んでセリフも覚えている。その後、ご縁あって医学部に編入し、解剖や国家試験のつらい時期にこの漫画は私の心の支えになってくれた。
 医療系漫画やドラマの医師はみんなヒーローとして描かれているが、『研修医なな子』は人間味があって良かった。看護師さんに怒られ、指導医に怒鳴られ、患者さんに「大丈夫なのか、こいつ」と嫌がられてもへこたれない。医師も最初はみんな、アンプルの切り方も分からなくて、注射が下手くそで、かゆみ止めの薬さえも処方できない。
 なな子は作品中、数々のドジを踏み、さまざまな試練に出くわすが、どんどん成長していく。そして最終話では、指導医になったなな子が研修医に「私についてきなさい」と言う(しかも名札の名前が変わっている!)。
 自分の研修医時代には、この漫画のエピソードのほぼ8割は経験したと思う。救急車で酔ったり、回診の時に階段を駆け上ったり、同期が泥酔して救急外来に運ばれたり。研修しながら、「あれもこれも『研修医なな子』に載っていた話だな」と、ふっと思い出しては喜んでいた。
 医師になって今年で6年目。後期研修は今年の3月で修了してしまった。研修医1年目と比較して大して成長していない気もするが、とりあえずアンプルは切れるようになっていた。注射もまずまずできる。かゆみ止めは何個か処方できるようになった。
 医療系の作品から離れていた私は、実家に戻った折に『研修医なな子』を数年ぶりに読み返してみた。年齢が変われば、作品の読み方も変わる。学生の時は「私も頑張ろう」という感想しかなかった。しかし、今は、「私を指導して下さった先生方は本当に本当に大変だったに違いない」という感情が湧いてきた。シリンジで薬液も吸えなかった赤ん坊のような私を、根気強く指導して、ヨチヨチ歩きができるように育てて下さった先生方に感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
 そんな私の下にとうとう研修医1年目の先生がついた。私は以前から言ってみたかったセリフを言う。
 「とにかく私についてきて」
 研修医の先生は「はい!」と元気よく返事をして、案の定、私を追い掛け回してトイレまでついてきてしまった。
 まだまだヨチヨチ歩きの身分ではあるが、今度は私が「なな子」を育てる立場になっていくのだと、襟を正す気分になった。

広島県 広島市医師会だより No.603より

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