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平成29年(2017年)7月5日(水) / 南から北から / 日医ニュース

勝負パンツ

 眼科は外科系だが、「え、そうなの?」という方々もおられるかも知れない。眼科の手術と言えば、白内障手術がすぐ思い当たる。眼科の手術は、もちろんそれだけではない。霰粒腫摘出術や網膜光凝固といったレーザー治療まで種々ある。よく知られた白内障手術は定番で、やることはワンパターンの手術のように思われるが、どの手術もそうであるように、白内障もバリエーションがあり、それを型どおりにする難しさがある。患者さんもさまざまである。
 さて、眼科でも、前日に眠れないような手術に出会うことがある。それは難治例に対する硝子体手術(硝子体茎顕微鏡下離断術、増殖性硝子体網膜症手術)などである。
 その眠れなくなるような手術の症例は、難治性の増殖糖尿病網膜症や網膜剝離・増殖硝子体網膜症などで、広範に増殖膜で網膜同士が多く癒着していて、どこからどう手を付けていいのか。網膜が癒着で閉じていて、眼底が見えないくらいの場合もある。硝子体手術でその場で癒着を外して網膜が開かなければ、そこで失明ということになり、そのプレッシャーは重いものだった。前の日からイメージトレーニングをして、手術の手順、どこをどうするのかを頭に入れるのはもちろんだった。
 手術場では、術衣を身に着ける。家から着けてきた物はパンツだけになる。何時間かの重い手術(私の未熟のためと思うが)を何とかやっと終えた時、履いていたパンツがなぜか記憶に残った。そして、また難しい症例に当たって、そのパンツがたまたま巡ってきて、無事に手術が終わった時、なぜかそれは「頼りになる奴」に昇格していた。7の倍数ではない何枚かあるパンツの順繰りで、それは偶然である。手術に験担ぎは好ましくないかも知れない。それでも、時々この勝負パンツに頼りたくなるような手術が出てくることがあった。
 最近年齢も進み、自分自身の体もあまり丈夫でない事情も生じ、「もし自分が倒れた時に着ていた下着が擦り切れていたり、穴が開いていたりしたら恥ずかしいよね」と妻に言うと、「じゃあ、捨てたら」との即座の返答あり。そしてそのパンツは今、優柔不断にも私のタンスの引き出しの奥の片隅にある。

(一部省略)

富山県 富山市医師会報 第545号より

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