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平成30年(2018年)6月5日(火) / 日医ニュース

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」

 ワークショップ「会員の倫理・資質向上をめざして―都道府県医師会の取り組みおよびケーススタディから学ぶ医の倫理―」が4月26日、日医会館小講堂で開催された。
 羽鳥裕常任理事の司会で開会。冒頭あいさつで横倉義武会長(今村定臣常任理事代読)は、会内の生命倫理懇談会が昨年11月にまとめた「超高齢社会と終末期医療」と題する答申では、アドバンス・ケア・プランニングの重要性について触れるとともに、患者の意思決定支援のためには、地域包括ケアシステムの中で考える必要があり、その中核となる″かかりつけ医"の役割がますます重要になると指摘されていると説明。これを受けて、日医では、かかりつけ医や医療関係者の終末期医療に対する意識啓発を目的としたパンフレット「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」を作成し、『日医雑誌』4月号に同梱して会員に送ったことを報告し、会員の倫理・資質向上に対する一層の協力を求めた。
 続いて議事に移り、会員の倫理・資質向上委員会副委員長で、生命倫理懇談会委員、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」の座長も務めた樋口範雄武蔵野大学法学部教授/東京大学名誉教授が、「終末期患者の医療について」と題して講演を行った。
 樋口副委員長は、「わが国のこれまでの法や法律家は高齢者医療について、①医療過誤が起きた時の法的対応②高齢者への病状の説明③終末期医療の不開始・中止と(嘱託)殺人罪の適用―など、極めて狭い関心しか抱いてこなかった」と指摘。しかし、2007年からの10年で、超高齢社会の認識が深まり、終末期医療の充実、孤独死の防止といった、より重要な課題が表出し、2018年以降はACPがどれだけ実現できるかが大きな課題となっているとした。
 更に、尊厳死法も持続的代理権法もない日本では、医師が関わる延命治療中止事件が頻発したことを契機に、2007年に厚労省が検討会を設置し、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を公表。「医療ケアチームで」「患者本人の意思が大事」「緩和ケアの充実は国の責務」という3点を明文化したことにより、現在では、延命治療の差し控えや中止は、丁寧な医療が行われている限り、刑事事件になることはないと説明した。そして、3月に公表されたガイドラインの改訂版の三つのポイントとしては、①ACPの重要性②多職種医療ケアチーム③医療代理―を挙げた。
 また、アメリカの七つの州と首都ワシントン、カナダ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイスでは、一定の条件を満たす患者に医師が致死薬を処方し、飲むか否かは本人の自己決定とされていることを紹介。
 これからは、ACP促進法など、"法"がより良い終末期の支援を前向きに考えていくべきであり、「死すべき定め」をいかに受け入れるかが重要だとした。

二つの事例について活発に討議

 引き続き、樋口副委員長から、「討論の課題と進め方」についての説明が行われた後、
 事例①:終末期医療に関する課題(開業医であった父の代から家族ぐるみで付き合いがあり、高血圧、腰痛等で受診している85歳女性が、一人息子が海外におり、独居生活をしていることから、最近強調されるようになってきたACPという今後の医療計画づくりの相談に来られたことへの対処)
 事例②:医療事故調査制度の届け出の問題〔半年前に多発性脳梗塞、うっ血性心不全で入院。その後、寝たきり状態となり、食事は胃瘻から行われている80歳女性に対して、当直ナースが、ウルトラソニックネブライザー(UN)を使用して喀痰吸引を行ったところ、1時間後に心肺停止状態の患者を見つけ、当直医師が死亡を確認。肺炎による呼吸不全が原因と判断して容体の説明をし、遺体は家族が引き取ったが、その後の病院の調査により、誤ってUNに消毒液を入れていたことが判明。医療過誤と認定されるとともに、蒸留水と消毒液が同じテーブルで管理されていたことも判明したとの報告を受けた病院長(管理者)としての対応〕
 ―の二つの設例について、参加者が七つのグループに分かれて討議を行うワークショップ形式によるケーススタディが行われ、全体討議では、グループによる議論の内容が発表された。
 事例①では、一時帰国した息子または代理人や本人、ケアマネ等多職種が連携し、時間をかけて話し合うべきとの意見が出された他、各医師会がACPの概念普及のために行っている啓発活動などが報告された。
 事例②では、今後の再発防止のためにも、事実を家族に説明し、事故調査委員会を院内に設置、制度利用の手続きを開始すべきとの意見が大勢を占めたが、警察への届け出に関しては、さまざまな意見が出された。
 最後に、森岡恭彦会員の倫理・資質向上委員会委員長(日本赤十字社医療センター名誉院長/日医参与)が、同委員会の活動と、近年医師数は増加しているが医師の処分は減っていることを示し、「医の倫理のキーワードは″気付き(awareness)"である」と総括し、ワークショップは終了となった。

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