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平成30年(2018年)6月20日(水) / 日医ニュース

ファンベース

マーケティングの世界ではファンベースという考えが注目を集めている。
 「商品やブランドが大切にしている価値」のファンである人々を、企業が大切にすることによって、売上の8割を支えている2割のファン(パレートの法則)の生み出す「企業や商品の価値」が高まり、企業の収益の安定や成長につながるという考え方である。
 脚光を浴びている背景には現代社会の行き詰まった現実がある。情報や物が溢(あふ)れかえり、伝えたい情報が伝わらず、何を頼って選ぶべき情報を探していいのか迷い、物質的に充足した情報過多な社会が必ずしも豊かさや幸せをもたらすとは言えないと、人々が気づき始めたからである。
 ファンベースのプロセスが興味深い。まず企業は、熱狂的なファンを大切にし、彼らの言葉に傾聴し商品を改良改善していく。商品の支持者であることに自信を持ってもらい、しかもファンであること自体に喜びを感じてもらう。次に新規顧客の獲得に力を注ぐと同時に、ファンをより一層大切にする意識を持つ。ファンとの日常的接点を大切にして、彼らが参加できる活気ある場を多く作る。更に誠実なやり方かどうか自分に問い掛け、ファンに本業の細部まで見せて丁寧に説明し、究極的には社員の信頼を得て身内を最強の支持者にする。すなわち企業と顧客との間に熱烈な信頼関係をいかにつくり上げ広げるか、それがファンベースの本質である。
 ファンベースの効用は、一見ビジネスの世界だけの話と思えるが、実際にはどの組織にも適用でき、現代社会に必須で不可欠な考え方となっている。
 患者の心と体を診る医療者にとって、よい医療の前提によいコミュニケーションが欠かせない。ファンベースは、今の医療に欠けていると言われる対話を補う考え方とは言えないだろうか。

(文)

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