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平成31年(2019年)3月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

「旅先で 役に立たない 医師免許」

 昨年のゴールデンウィークに、家族で石垣島へ出掛けました。青い海と南島らしい湿った風に囲まれて、海で遊んだり街を散歩して楽しんでいました。
 旅行3日目の朝のこと。旅疲れが出たのか、次男(5歳)が腹痛を訴え始めました。
 次男はもともと体調が悪くなると嘔吐が止まらないケトン血性嘔吐症疑いの体質......何度か点滴経験があります。これはまずい予感......そして予感は当たり、嘔吐し始めました。
 島内の市街地から車で40分ほどの静かな地区に滞在していたので、周りには商店もなく、イオン飲料を求めて展望台の自販機まで登りました。
 そうして入手したイオン飲料も、少し飲んでは嘔吐し、横にいる小児科医(母親の私)は見守ることしかできませんでした。
 日が沈む頃には尿も少なく、ぐったりして、このまま夜を越すのは危ない気配がしました。電波がつながる場所まで移動してスマートフォンで病院を検索、市街地にある県立病院の救急を受診することにしました。
 日中海で遊んでいた長男と夫には留守番をしてもらい、私一人で活気不良の次男を車に乗せて受診することになりました。
 既に外は真っ暗、慣れないレンタカーとカーナビ頼りの不安な運転です。ほとんど街灯も信号もない道で対向車も数少なく、ヘッドライトだけが道を照らします。時々道の真ん中に大きなオカガニやカエルがいて、それをうまくかわしながらの危険な運転が続きました。
 40分ほどで病院に到着し、経過や自分の職業を話して、血液検査と補液をしてもらうことになりました。血糖値54、入院を迷うくらいの立派な代謝性アシドーシスでした。
 補液を開始すると次男の顔色はみるみる良くなり、眠り始めました。
 数時間の点滴中、私はというと、やっぱり救急って親にとっては本当にありがたいなと思いながら、混雑する「離島小児科救急の待合」を患者目線で観察して過ごしました。
 帰り道、再びオカガニを避けながらのドライブになりました。
 翌朝から次男は見違えるほど元気復活! 昼にはパスタ1人前をペロリと食べました。
 想定外の病院受診に泣いた旅のリベンジを果たすべく、今年の連休もまた石垣島へ行くと決めました。今回は病院要らずの旅になることを切に願い、次男のリュックに輸液セットを入れて出発!
 次男は元気に過ごしていて、この調子!と思っていたら、旅行3日目に再びアクシデントが発生しました。
 去年訪れるはずだったビーチでシュノーケルを楽しんで、さあ宿へ戻ろうという時のこと。長男がビーチ施設のアスレチックにどうしても登りたいと言い出し、すぐに戻ることを約束して一人アスレチックに向かいました。しばらく経っても長男は戻ってきません。いやな予感......。
 様子を見に行くと、高さ2・5メートルほどあるアスレチックの下で一人、肩を押さえながらうずくまって泣いています。小学3年生の長男が泣くのはよっぽどのことです。
 長男の話によると、地面から垂直に伸びる登り棒でてっぺんまで行ったところで、Tシャツが遊具に引っ掛かり、それを外そうとしたら手が滑って地面まで落ちたとのこと。
 まさか骨折!? 内心ヒヤヒヤしながら、ひとまず歩けることを確認して宿へ戻りました。
 ラッシュガードを脱がせてみると、一目で分かる右鎖骨の変形が......。
 ガガーン。私の頭の中は、「何で? また? 今度は長男? 病院受診? 明日からの旅行は?」ハテナがぐるぐる回っていました。
 今回は夜中でなく昼間のうちにと、市街地の整形外科クリニックへ向かいました。ゴールデンウィーク真ん中の平日で、クリニックはかなり混雑していました。しかも次男用の輸液セットに気を取られて、保険証を忘れる大失態。
 レントゲン撮影の結果、やはり右鎖骨骨折との診断を頂き、鎖骨バンドをして宿に戻りました。
 この後、右上肢の可動域制限はありながらも、釣りをしたり、プールに少しだけ浸かったり、何とか予定していたプランを楽しむことができました。
 ちなみに輸液セットは出番なく持ち帰りました。
 想定外なことが続くわが家の旅行記、すべらない話として知人には好評を頂いています。
 幸いどちらも大事には至らず、「いろいろあってもその状況下で楽しむ」ということを家族で共有した貴重な経験になりました。とは言え、もう病院受診付きの旅行は懲り懲りです。来年は行き先を慎重に選ぼうと思います。

神奈川県 藤沢市医師会報 第518号より

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