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令和2年(2020年)5月20日(水) / 日医ニュース

大学病院勤務医のキャリアデベロップメントに対する意識と実態調査

勤務医のページ

調査の背景

 近年、女性の社会進出に伴い医師における女性の割合も上昇し、現在、医学部生の約3分の1が女性となっている。
 しかし、医学部において女性が過半数を占める米国においても、職掌に関して、男女間で格差が存在すること、女性が男性よりも教授職に就く確率がかなり低いことが泉美貴東京医科大学教授らによって指摘されている。
 本邦においても社会全体の性別役割分担意識がいまだに影響しているのか、妊娠・出産等により仕事と生活を両立させることが困難となり、女性医師が大学病院での継続就業を断念せざるを得ない事態が起こっている。
 研究・教育機関でもある大学病院が、性別にかかわらず長く勤務できる環境をつくっていくことは、日本の医学・医療を発展させるために重要な課題である。

調査の方法と結果の概要

 今回、2015年度全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会の要請に従い、東邦大学を中心にした調査研究グループが、大学病院勤務医の就労実態を把握し、医師が性別にかかわらず大学病院で長く勤務するためにどのようなニーズがあるか、また同時に2016年3月から10月にかけて全国80大学病院の勤務医を対象に現在の臨床・教育そして研究に関するキャリアをどのように意識しているかについて調査した。
 その結果4573名(57・2%)(無回答の項目を含む)という極めて高い回収率を得ることができ、信頼性の高いデータとすることができた。
 結果として、大学病院勤務医は、研究、臨床、教育に対する肯定感を持っていることが明らかになった。研究、臨床、教育のいずれも重要と考え、特に最新の医学知識や情報が入手しやすいこと、研究指導者がいること、次世代の教育をする機会を持つこと、専門領域の医師というアイデンティティーを持つこと及び専門医資格を取ることを重要視し、仕事のやりがいに満足し、全体的に高いモチベーションの存在が伺われた。
 また、職場での人間関係にも配慮しながら勤務している姿勢も示された。
 その一方で、仕事に対する評価や報酬への不満、研究活動の状況や進捗への不満がみられたが、研究活動についての不満は、研究時間が十分に取れないことの他、研究資金も含めた研究サポートの不十分さを表している可能性が考えられた。
 生活については勤務時間の長さへの不満がみられたが、睡眠不足及び外出する機会の減少や余暇不足などにより、生活の質の向上に支障を来していることがその原因と考えられた。
 身体的健康、人間関係や周囲の環境についてはおおむね満足しているものの、子育てや介護に関する福祉サービスには不満を持っていた。

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委員会よりの提言

 今回の調査から四つの提言をまとめた。
(1)子育てをしながら勤務することができるよう保育所の整備や短時間勤務など柔軟な雇用制度及び勤務体制等の見直し。復帰支援プログラムの導入など多面的な支援体制の整備を行う
(2)診療や教育に関する研究以外の貢献、社会への貢献などを十分に評価する
(3)研究機関でもある大学に見合った勤務体制の構築により、研究時間の確保と研究サポートシステムを充実させる
(4)職位別勤務拘束時間の目標を設定するなど、労働実態の改善を図る。それを可能とするサポートシステムの整備を促進する

調査から考えられたまとめ

 今回の調査では男女を問わず医師のモチベーションの高さが示されたが、それに支えられている現状が続けば、大学病院勤務を希望する医師の減少が大いに危惧される。子どもを有する女性医師の大学病院勤務が難しいことも示され、大きな社会問題でもある。
 わが国の医療、医学研究、医学教育を支え、魅力的な大学病院をつくるためには、大学病院が単なる診療機関ではなく、研究機関であり、教育機関であることを再確認し、社会的にも理解を得るべくより努力することが重要であると考えた。
 なお、今回の調査は全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会(横浜市立大学学長相原道子委員長)が推進し、委員会活動の一環として事務局の全面的支援の下に、取りまとめは筆者及び東邦大学調査グループが担当した。調査の手続き及び結果の詳細は、全国医学部長病院長会議男女共同参画推進委員会のホームページに報告書として公開している。
 調査終了後、大学病院勤務医師をも含めて、聖域なき働き方改革が進められ、労働時間や労働対価についても、提言やまとめの一部が具現化されつつある。今後、大学病院に勤務する医師達にとってワークライフバランスのとれた、学びやすい働きやすい環境が更に整備されていくことを願ってやまない。

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