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令和2年(2020年)7月5日(日) / 「日医君」だより / プレスリリース / 日医ニュース

第Ⅹ次学術推進会議報告書まとまる

日医定例記者会見 6月10・17日

 羽鳥裕常任理事は、第Ⅹ次学術推進会議が会長諮問「AIの進展による医療の変化と実臨床における諸課題」に対して、検討結果を取りまとめ、6月9日に門田守人座長(日本医学会長/堺市立病院機構理事長)より横倉義武会長宛てに答申したことを報告し、その概要を説明した。
 報告書は、「Ⅰ.はじめに」「Ⅱ.医療現場に入りつつあるAI」「Ⅲ.AIと技術変革がもたらすヘルスケア社会の変化」「Ⅳ.医療データを基盤とする医療AIの課題」「Ⅴ.まとめと提言」「創作:未来の医療―夢に出てきた2040年のクリニックの半日」で構成されている。
 Ⅱ.では、内閣府AIホスピタルプロジェクトの視点と展開について、ビッグデータとAIが医療を含め社会全体の変革の貢献につながることを紹介。その一方で、DNAの解析技術とAI技術とによって可能になったリキッドバイオプシーやビジネスとして実施される遺伝学的検査などの浸透が進むことで、医療だけでなく、新たな社会的課題が生み出されているとして、これらへの対応の必要性にも言及している。
 また、医師や看護師の記録が音声認識による自動入力されることで、医療者の業務の軽減と労働生産性の向上、患者の待ち時間の短縮や満足度の向上につながることが期待されるとする他、日本では職を奪われるかもしれないという漠然とした脅威の観点からAIを捉えているとし、AIと人とが役割分担をして協業する社会の実現に向けて発展していくことの重要性が述べられている。
 更に、AI Surgeryを実現するスマート治療室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)の現状と将来として、手術機器のパッケージ化という新しい発想の下、手術室内の機器のネットワーク化、医療機器のロボット化と術中の意思決定支援をAIが行うなど、手術室そのものがAI医療機器パッケージとなることを目指した事例紹介や、声に表れる心の動き、ストレス、うつ傾向など、膨大なデータを学習したAIが分析し可視できるアプリケーション(MIMOSYS)などを紹介。AIによる音声感情認識技術が音声バイオマーカ分析システムとして、精神疾患以外の疾患の診断に活用されることに対する期待を示している。
 Ⅲ.では、Society 5.0時代のヘルスケアについて、医療データは公共財であり、新しい価値を共創する仕組みとして、どのようにルールを作りデータを活用していくかが重要であるとするとともに、疾病や格差があっても、誰もがその人らしく健康に生きることができる社会をつくり出すためには、IT、IoT、AIを活用していくことが求められるとしている。
 また、ITの進歩は猛烈に速くAIもITも将来予測は困難であることから、今使えるものを今の身の丈にあった形で活用していくことが最も重要であると強調。高速ネットワークSINETが医療において活用されていくことに期待感を示している。
 更に、「ハイ・パフォーマンス・コンピューティングと医療」と題して、コンピュータの心臓部であるCPU(Central Processing Unit)の高性能化、並列処理化の動向と現状を説明。医療AIの高速処理が可能になることで、放射線治療計画の計算や、消化器内視鏡カプセルの膨大な画像処理をリアルタイムに近い処理時間で実現できる事例などについても紹介されている。
 Ⅳ.では、データの基盤として電子カルテデータを利用することがいかに重要であるか説明した上で、その問題点として、データ流通と標準化、専門医師によるアノテーション(AI学習のための付加データの追加作業)の作業量を挙げ、その解決のためには知財管理をどのようにすべきかも、非常に重要な視点になるとしている。
 また、データの提供側とAI技術提供側とが共創する関係、つまり「データ×AI」によって価値、新しいビジネスを創成する関係を構築することが重要であるとし、医療AIにおいても、医療にとって改善すべき点を開発側に対して、医療側の知見を示すことで共創していくことにつながるとしている。
 更に、AIはデータに基づく特定パターンを学習し、それを活用する処理を得意とする一方、医療の専門家には、積み重ねてきた膨大な医学的な知識や人間としての経験を総合的に活用して、患者に最適と考えられる判断を患者と相談しながら下すことができるとして、AIを医療、社会がうまく使いこなすことを求めている。
 同常任理事は、前期同委員会では総論的にAI技術を学ぶことに力を注ぎ、今期は「実臨床」でどこまでAIが汎用されているか、あるいは今後広まっていくかという視点からの討議を行ったと振り返り、「『身の丈にあったAIの活用』とは、今あるAIを過度に期待し過ぎず(AIの身の丈を知る)、かつ我々が利用できると思う範囲内で最大限うまく活用する(医療側の身の丈で使う)ことが重要であることを示すことが、本報告書を取りまとめた主旨でもある」と述べた。

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